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【朗読版】星の魔法使い

  あなたが、その街の外れの星見やぐらの鈴を鳴らすと
  魔法使いのおじいさんが、星とお話をさせてくれます。
  おじいさんは、あなたの手をひいて、星見やぐらを登ります。
  星見やぐらの上に着いたら、あなたに目をつむらせます。
  そうして呪文を唱えながら、あなたの星を見つけます。
「ほら、聞こえるよ。あなたの星の声が」
   目をつむったあなたは、かすかな風に揺れる鈴の音と一緒に、
   遠くでささやく声が聞こえたような気がします。
「あなたのことを、いつでも、いつまでも見ていてあげる。
   あなたが幸せになるのを、見ているよ」

   あなたにも、確かにそう聞こえたように思えます。
   目を開くと、空いっぱいの星です。
   どれが自分の星なのかはわかりません。
   けれども、 自分の星は、この空に確かにある。
   そのことを信じることができるのです。


 ある新月の夜に、リンリンと鈴がなりました。
 おじいさんが星見やぐらから降りてみると、
 少年がひとりで立っていました。
 おじいさんはいつものように呪文を唱えます。
 夜空は晴れわたっています。
 新月だから、星はよく見えます。
 そのはずです。
 ところが、何故か星のこたえがありません。
 何度も何度も、唱えても。
「もしかしたら、きみも。なのか」
 
少年の星は、光が消えてしまっていたのです。
「私もきみと同じだ。私の星も、もう輝かないのだ」
「見えなくても、それでも、ぼくの星はある?」

 小さくうなずくおじいさんに、少年はいいました。 
「ぼくに魔法を教えてください」
 おじいさんは大きくうなずきました。
「私はずっと、きみを待っていた」

 星座が何度も回りまわって、少年は魔法使いになりました。


 その満月の夜。
 久しぶりに星見やぐらの鈴が鳴りました。
 小さな子どもが、ひとりで立っていました。
 星見やぐらの上で、魔法使いは呪文を唱えます。
 ところが星の返事がありません。
 久しぶりなので緊張したのか、と繰り返し唱えますが、
 沈黙したままの夜空は、いつの間にか曇っていました。
「今夜は曇ってしまったから、また明日いらっしゃい」
 子どもはこくりと微笑みました。
 そして、キラキラと灯が瞬き始めた街に帰っていきました。
 魔法使いは子どもの星を探します。
 ほうき星に乗って星を巡ります。
 けれども、子どもの星はどこにもありません。
 魔法使いは星から星へと飛び回ってヘトヘトになりました。
 それでも、かわたれ時になって、ようやく
 あの子どもの星を見つけだしました。
 ところが、その星の光はもう消えかかっていました。
 魔法使いは、師匠の言葉を思い出しました。
「光が消えてしまった星は、誰も見つけることはできない」
 だからこそ、師匠は、少年を魔法使いの弟子にしてくれたのです。
 魔法使いはあらゆる魔法を使って、
 子どもの星の光を取り戻そうとします。
 まず、星に花を咲かせてみました。
 ダメです、
 星を金色や銀色に塗ってみました。
 ダメです。
 やがて、暁の光が、魔法使いの顔を照らしました。
 その時、魔法使いは、「師匠から封印された魔法」を思い出しました。
 青い燐光を放つ星になった、師匠の果てしない笑顔も。


 次の夕方。
 子どもが星見やぐらに登ってみると、誰もいません。
 テーブルの上に、手紙がありました。
「北の空の一番明るい星がきみの星です。
 その星は『きみに会えてよかった』と、言っています。
 きみの星が見えるのは今夜だけです。
 そんな星と出会えたことが、
 きみが幸福になることの証なのです」

 子どもは北の空を見上げます。
 今まで見たことのない輝きが、そこにはありました。
 子どもが握りしめた手紙の端には、こう書かれていました。
「魔法の本をきみに贈ります。ぼくはきみを待っていた」
 
 
 それからまた、星座は何度も回って、
 子どもは魔法使いになりました。 


「その時の子どもが、私です。
 だから私もいつかきっと、誰かの星に」

星の魔法使い



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