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機動戦士ガンダム ジークアクス 終わりなき日常の始まりとガンダムプリキュア
筆者、ガンダムはファーストとGガンダムくらいしか見たことありません。フリクリも見たことありません。
ネタバレありです。
ビギニング
誰もが一度は考えるifシナリオ。しかもノリノリである。それを公式でやる背徳感にゾクゾクします。
パラレルワールドものとして見て改めて感じるのは、歴史が、世界がどうなるのかなんて、ほんの一瞬のズレ、少しのキッカケで変わってしまうんだということ。
ガンダムシリーズという歴史ある作品であるからこそ、「正史」があり、それに基づく様々な人間ドラマがあった。今の時代に生きるガンダムフォロワーは、それを自明視して考察し、生活しています。アムロはガンダムに乗るんだと。ガンダムの次はZガンダムなんだと。
しかしその根本となる出来事が、何かひとつ、ズレてしまったら?
全ては変わってしまう。歴史も、常識も。
定番の歴史ifストーリーに、信長が本能寺で死ななかったら?というものがありますが、誰もが娯楽としてそれを考察します。現実に起こり得た過去としてマジになって考える人はいない。「歴史にifはない」の格言どおりです。
しかし今回、「ガンダム」という40年の歴史と圧倒的な質量を伴う「正史」の改変を、公式自らが行うという禁じ手により、「歴史にifはあった」という衝撃体験を多くの人にもたらしたのです。
だとすれば。今、自分たちが生きている当たり前の「現実」も、同じではないか?
ほんの少しのキッカケで、自分の選択次第で、全く違う未来が訪れるのでは?
そんな希望を感じずにはいられません。
しかし同時に感じるのは、「人間万事塞翁が馬」といわれるような、人間個人の思惑を超えた数奇な運命です。シャアがニュータイプだろうが、いかに優れた存在だろうが、より大きな流れの中では、どうしようもなく漂う小さな存在に過ぎない。一個人が一局面でいかにベストを尽くそうと、その後に陸続と起こっていく出来事を制御しきることなど出来はしない。
果たしてシャアにとって(そして他の人物にとって)、今回の「if」は幸福だったのか?それとも厄災だったのか?答えはそう簡単には分かりません。
一つだけ言えるのは、そんな世界の「複雑さ」の中で、シャアも私たちも漂うように生きているという、当たり前だけど眩暈のするような世界の認識です。
ジークアクス
こちらはビギニングに引き続いた世界ですが、テーマはガラッと変わります。戦争が終結した世界。モチーフは明らかに日本の現代社会、それも社会学者宮台真司が提唱する「終わりなき日常」です。
ジオン軍はアメリカの位置に置かれ、根の国の移民はガザなどを連想させます。しかしあまり重要ではない。
アマテは中流階級の家庭で何不自由なく過ごす少女です。つまらない日常、まがいものの世界に対して、明らかに「退屈さ」を感じています。戦争の記憶や兵器であるモビルスーツに対する忌避感などは全く持っていません。ただ漠然と、「ここではないどこか」に憧れ、しかしそれがなんなのか分からず悶々と生活しています。
そんな彼女が偶然ガンダムに乗ることで、「キラキラ」に触れ、世界が変わります。「ホンモノ」を見つけ、そして自分の「マブ」と出会い、動き出す世界。
青春や。ええ話や。
このジークアクスは、戦争という大きな物語が終わった後の、若者たちの小さな物語です。もはやシャアとかジオン軍とかの「これまでのガンダムの歴史」は全く関係がない。多少の不平等と抑圧はあれど、世界を脅かす大文字の「悪」も、絶滅戦争も存在しない。おそらくシャアはあの爆発で死に、シュウジは偶然ガンダムを手に入れたのでしょう。
クランバトルも非合法とはいえ明らかに「ゲーム」です。サイド6内での小さな物語です。世界を変えるような話ではない。極めてオーソドックスな青春物語です。
誰もが気になるのは、アマテと対になる存在と思われたニャアンです。アマテとの出逢い方、神社での再会シーンは、明らかにその後の関係を連想させます。つまり赤いガンダムに乗るのはニャアン、アマテのマブはニャアンだという連想です。自分はプリキュアとの共通性を感じました。しかし今回は唐突に現れるシュウジがマブとして赤いガンダムに乗り、そのまま終わってしまいます。
その他、家庭的、経済的に不自由のないアマテに対し、ニャアンは明らかにヤングワーカー、しかもたぶん家庭内暴力被害者です。アマテに対して暗い存在。天照と月読、髪の色からも絶対コンビです。いずれにしろニャアンについてはほとんど語られなかった。
続編があるとしたら(追記 公式ページに「TVシリーズの放送に先駆け」ってしっかり書いてあった。)、シュウジはなんかの理由で退場、ニャアンが交代する感じなのか、それとも敵として立ちはだかるのか!
そしてストーリーはサイド6内の小さな物語で終わるのか、それとも新たな大戦に発展するのか!
すごーく見たい!!ガンダムプリキュア!
追記 キラキラについて
ビギニングとジークアクスの共通点は、ニュータイプ特有のキラキラ体験です。個人の存在を超えた、大いなる何かに触れる体験。いわゆるLSD的な体験描写ですが、コレが良かったですね。凄く魅力的な映像で、気持ちよかったです。
アマテがシュウジの描いたストリートアートを見て、キラキラ体験そのものだと気づくエピソードも良かった。「誰にも説明できない、理解できないが、確かに存在したもの」を共有できる仲間がいたという事実。それだけでシュウジはマブなのです。いいなー。