『ドキュメント20min.』の「悪口の美学」は非常に興味深い内容でした
悪口を深く掘り下げた『ドキュメント20min.』の「悪口の美学」。お笑い芸人Aマッソ加納、ラッパー呂布カルマ、言語哲学者和泉悠氏。この三人が「悪口の本質」について考えた20分。
歴史に残る悪口の話がまず面白かったですね。
大文豪・夏目漱石が奥さんの鏡子さんのことを「お前はオタンチンパレオロガスだよ」と言った悪口。
この言葉と、東ローマ帝国皇帝・コンスタンチン・パレオロガス(英語名)をかけ合わせた造語が「オタンチンパレオロガス」。
鏡子さんは意味が分かっていなかったらしいですが、昔は男の立場が上で女が低く見られていた…「言い返せない」立場の人からしたら、夫の漱石からマウント取られている感じがして不快だとAマッソ加納が言っていた気持ち、なるほどでした。
上下のある関係性においての悪口…それこそが今の″ハラハラ・ブーム″に繋がっているのかもしれませんね。もしかしたら「言い返せない」立場の人からの逆襲なのかも?!
西郷隆盛から島津久光への悪口「ジゴロであられる故」。政治の中心に躍り出ようとしていた島津久光のことを「ジゴロ=田舎者」として無理だとおとしめた悪口でした。
悪口とは、相手との優劣を表現して相手の評判を攻撃すること。西郷隆盛の悪口はまさにこれでしたね。
「世間でやめようとする悪口の境界は?」
これは難しい質問でした。それを聞いて不快な思いをする人がいるので…と平気で言われてしまう今のコンプラ時代。
お笑いの世界でよく使われる「アホ」という言葉。歴史が蓄積されたら「アホ」も許されなくなるのでは?と。「アホもあぐらかいてられん」はAマッソ加納の名言でしたね。
「悪口は切符がいる」これは奥深い見解だと感じました。この環境なら言っていい、これなら言っていい…条件がとても多いと。普段仕事で言葉を使っていても、これもダメ、あれもダメ。これを肌で感じているお笑い芸人の人たちは、ネタの中でも言葉に敏感にならざるを得ないでしょうね。
ここで話題は「エンターテインメント性のある悪口」へ。
日本には、白装束の男たちが民衆の罵声を受け止める「悪意まつり」というのがあるそうです。
江戸時代に役人が村人の政治への不満を聞くために始まった祭りだそうで、みんなで「ばかやろー」「おおばかやろー」と叫べば悪口も娯楽になってしまう感じがしました。
中国のモソ人。「歌喧嘩」の習慣があって、互いの気持ちを歌うこと・歌を返すことでぶつけ合い、怒りを解消。これはお互いに遺恨を残さない“センスのいい悪口“かもしれませんね。
「どんな悪口がエンタメになると思いますか?」
この質問に呂布カルマが、「言い返す」余地を残した悪口はエンターテインメントになり得るのでは?と。悪口をエンタメ化する方法として、比喩や回りくどく言うことが大事とも。ラッパーならではの発想かもしれませんね。
ここでどうしても現代社会で欠かせないのが「SNSの悪口」。「書く」という悪口については、実はあの紫式部も書き残していたそうで…。
『紫式部日記』に「さばかりさかしだち」という言葉が。この意味は「あそこまで利巧ぶって」。紫式部から清少納言への悪口だったそうです。
この他にも「学識の程度も足りない」「なんでも感動するので一般感覚からかけ離れる」とか、紫式部ネチネチやってたみたいです。
でも紫式部は「自虐」の言葉も書き残していたそうで、「何一つ取り柄もない」「将来の希望もない」「慰めるものもない」などなど。「ないないづくしのオンパレード」で「腹くくった悪口じゃない」とAマッソ加納に言われていました(笑)。
その場で言い合う悪口よりも、文字として残る悪口は鋭利な印象になりやすいですよね。決して消えないので…。
「単にムカつくな…くらいのノリで書くけれど、広場で拡声器を使ってそこにいる全員に訴えるみたいになってるので、書くということと、口だけでぼそぼそ言うことは違う」と和泉氏。
「ネット上の誰かも分からない悪口ってゴミだと思う。悪口は言った言葉だけが残って、最終的に自分に返ってくる。だから言わないに越したことはない。でも言ってしまう」と呂布カルマ。
「悪口言わんとこうよ。言ってしまう生き物だから…」Aマッソ加納。
悪口って言いたくないと思っていても、感情に任せてつい口をついて出てしまうものだったりしますよね。
私自身たまに昔の日記を読み返してみると、悪口めいたことを書き残してしまっていることも多々あったりで…。紫式部にならないように気をつけなければですね。
この番組が放送された後で、SNSにAマッソ加納が書かれる言葉を予想してました。
「誰が言うてんねん。お前が言うな!」
もちろん言わないに越したことはない悪口ですが、人間である以上たまには言いたくなってしまうこともあると思います。
その時はモソ人の「歌喧嘩」を見習って、お互いに歌に乗せて言い合いますか(笑)。これが一番平和かもしれません。
『ドキュメント20min.』は20分という限られた時間の中で、いろいろ考えさせられてためになる、非常に優秀な番組だと思います。