"自主"東京アラート
昨日の東京のCOVID-19感染者数は「過去最高」の224人と報告された。(トップ画像は7月9日のNHKニュースウェブサイトの動画画面よりキャプチャ)
昨日の報告数が75人だったので、実は次の土曜日、ライブ配信でとある学会の特別講演を行うために、お台場の配信会場に出向くつもりであったのだが、「224人」という数字はその気持を萎えさせるのに充分であった。
現在、筆者の所属する東北大学では現在「レベル1」として、全学的に出張は県境を越えても可能、ただし行き先の感染状況を考慮、となっているが、大学病院に出入りする関係者は、臨床実習の学生含め「東京への出張不可」という独自の厳しい基準を設けている。医療従事者に感染者が出ると、病院の運営が困難になるからだ。
筆者は医学部に所属しているが病院に出入りすることはないので、東京出張はできるかと思っていたのだが(ついでに3月の納骨以来、会っていない母の様子も見たい)、カバー画像のようなグラフを見ると、昨日の印象では「山を越えたか?」だったものが「まだ増えるかも?」になる。
何かに似ている……と思って気づいたのだが、これは「株価の日足チャート」を睨んでいるようなものなのかもしれない(注:筆者はトレーダーではないので、あくまで想像)。
明日の株価の正確な予想は困難でも、どのタイミングで売り買いするべきかという原則はある(らしい)。底値からちょっと上昇気味のところで買い、高値から落ち気味の日が続いたら手放すのが良い(らしい)。
一昨日(7月8日)は、100人超えが数日続いところで、ようやく「落ち気味」という印象であったのに対して、昨日(7月9日)は「まだ上昇するのかも……」ということを考えさせる。
なるほど、「ニューノーマルな行動変容」とはこういうことかと思った。
現時点では天気図ほどの予測精度では無いが、このグラフを見ながら「やっぱりまだ東京の感染リスクは高いから、リモートでライブ配信できるなら、出張するのは止めておこう」という判断をするように、少なくとも私は訓練されてしまった。同様の市民は他にもいるだろう。
さらに穿った考え方をすれば、一昨日、あえて100名を切る数字が発表されたのは、実際には100名は超えていたのだけど報告せずにおいて、昨日分に30くらい足せば過去最多になって、人々の行動変容を起こせるのではないか、という東京都の作戦だった可能性は無いだろうか。
何か壮大な行動社会学実験が為されているような気持ちになる。
少なくとも、「東京アラート」を抽象的に発出するより、データに基づいて行動する人間にとっては、グラフの形の方がインパクト大であることは確かだ。
……やれやれ、やはりしばらくは「ウィズコロナ」の日々が続く……。
なお、本日、文藝春秋八月号に取材記事掲載されていますので、よろしければ書店で御覧ください。「ファクターXを追え! 日本のコロナ死亡率はなぜ低い」というタイトルになっていますが、日本人だけ、というスタンスで書かれている訳ではありません。ただ、このタイミングの「自主東京アラート」の気分とは合っていないのは仕方ありませんね。
東京医科歯科大学歯学部卒、歯学博士。同大学歯学部助手、国立精神・神経センター神経研究所室長を経て、1998年より東北大学大学院医学系研究科教授。2006年より東北大学総長特別補佐、2008年に東北大学ディスティングイッシュトプロフェッサーの称号授与。2015年より医学系研究科附属創生応用医学研究センター長を拝命。2004〜2008年度、CREST「ニューロン新生の分子基盤と精神機能への影響の解明」研究代表を、2007〜2011年度、東北大学脳科学グローバルCOE拠点リーダーを、2016年〜新学術領域「個性」創発脳領域代表を務める。「ナイスステップな研究者2006」に選定。第20〜22期日本学術会議第二部会員、第23期、第24期同連携会員。専門分野は発生生物学、分子神経科学、神経発生学。著書に『脳の発生・発達:神経発生学入門』(朝倉書店)、『脳から見た自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』(ブルーバックス)、『脳の誕生—発生・発達・進化の謎を解く』(ちくま新書)、訳書に『エッセンシャル発生生物学』(羊土社)、『心を生み出す遺伝子』(岩波現代文庫)など。