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仙 臺 俳 句 会 2020

 仙臺俳句会(せんだいはいくかい)は、仙台の街なかで、奇数月第3土曜日の午後に開催している超結社句会です。2017年9月に発足し、3年目を迎えました。会員制ではなく一回ごとにエントリーを受け付けています。ご参加者は毎回十数名、若手が多く、合評型式で自由な雰囲気を大切にしています。
 本紙は、年一回の発行で、ご参加者の有志による作品10句の記念誌です。16名の個性豊かな作品をお楽しみいただければ幸いです。
                        2020年7月吉日

【参加者一覧】髙橋小径(短歌人)、久眞(いつき組)、佐藤涼子(澤、蒼海)、水月りの(小熊座)、渡辺誠一郎(小熊座)、金子千佳子(いつき組)、小田桐妙女(陸)、緋乃捨楽、𠮷沢美香(むじな・小熊座)、米七丸(むじな)、有川周志(むじな)、谷村行海(街・むじな・はなぞの)、武田菜美(銀化)、本田葉(澤)、浅川芳直(駒草、むじな)、小田島渚(銀漢、小熊座)

※ダウンロードはA4で6枚となります。


ファウスト      髙橋 小径(短歌人)
腕以て撃つファウストや止まらざる
遠泳や永遠に似たエスケープ
サンダルを失くして仰ぐ天の川
木耳を嫌いなあなたを好きでいる
パリ北駅アーモンドのにおいに反応す
兵役のあいだ女は雁飛ばす
流刑地に菌一揃い送らるる
毒を盛る杯こそ玉で作りたまえ
高層ビル局所麻酔で液化する
罪人も苺を食むやその忌日


思春期 ― wild tour    久眞(いつき組)
よく笑ひよく転ぶ子や風光る
五千マイル先にある夢春疾風
春愁とはジムノペティにある余韻
終電のカオスに苺転がつて
息継ぎがうまくできない平泳ぎ
刹那とは川面に歪む大花火
秋雲にあどけないとかあざといとか
曲線に書架連なりて秋夕映
サイフォンの逆流はやし雪催
氷晶や螺旋でできているわたし


春 来 た る    佐藤 涼子(澤、蒼海)
死者の名を読み上げラジオ春の闇
遺体安置所頭より剥がされ蝦蛄歩く
台風一過唾もて拭ふ髪の泥
水没車ライト点灯鳥渡る
水漬きたる家に朝刊秋澄めり
水漬きし床に泥照る小春かな
灯火親しむグローブにオイル塗り
当て革に繕ふミット夜寒なる
冬麗やピーチ味なる抗癌剤
バトミントンのけぞり打ちや春来たる

ショパンの心臓   水月 りの(小熊座)
指先に小さな火傷レノンの忌
古書店にサガンの文庫冬青空
天国の欠員を待つ雪うさぎ
マスクせし駱駝が通る針の穴
サファイアの瞳を濡らす春の雪
還らざるテセウスの船春霞
地の果ての桜とショパンの心臓と
預かりしままの片腕朧月
リトルスワローリトルスワローもう帰らない
青林檎どこかで星の割れる音


秋 の 句    渡辺 誠一郎(小熊座)
秋風の載ってくるのは戦事(いくさごと)
噓のような影をひきずる秋の蝶
振りだしの話に戻る葦の原
血族は被曝のなかに放尿す
母系より父系は未完草紅葉
ガラス切り包んで帰る秋の暮
鳥渡る戸口の開かぬ総菜屋
金泥の剥げて秋気の戻りくる
宦官が消えるがごとき木の実降る
真葛原姉の壊れた土人形


初冬の時計   金子 千佳子(いつき組)
オカリナを息とほりぬく春の雲 
万愚節抱き合つて見る違ふ方
夏兆すメビウスの輪に地平見え
倒木に生まるる微熱星涼し
かしはおちばや天金は黒ずみぬ
誰の忌日か白桃は剥き難き
蝶道は光の軌跡秋澄めり
初冬の時計回りに剥く果実
ベツレヘムへ星買ひに行く冬夕焼
ラヂオ周波探れり蒼く山眠り


雉 の 息   小田 桐妙女(陸)
剥がさるる人魚の鱗ソーダ水
街なかに結界がある曼珠沙華
冬の砂丘駱駝に女陰を委ねけり
梟は飛ばない歌舞伎町の森
鎖骨から子のない母の手鞠唄
目覚めけり原生林の雪女郎
渡り漁夫ティッシュにくるむ死臭かな
人妻の指より放つ紋黄蝶
清明の捨てられてゐるゴム人間
雉の息あらあらしくて女寺


雪 解 川     緋乃 捨楽
再会も雪解も待たず友逝きぬ
ドゥカティの赤きカウルや遠霞
リフティング落とした先に蚯蚓かな
美味さうに生ビールのむ無精髭
凌霄や煙草火そつとつけ合へば
HELLOWEENの名曲熱唱して良夜
ネルシャツの彩度下がりて冬隣
ピッチ出てふかす煙草や冬木立
寒月に唸るランチアデルタかな
ここでなら泣いていいよね雪解川


水   槽     𠮷沢 美香(むじな・小熊座)
絹雲やトラツクに豚つつきあふ
饅頭の丸まつてゐる夜長かな
きちかうや優しくされてばかりゐる
星空は呼吸の途中葡萄園
鳥渡るずぶんと萎む血圧計
空は空色にあらずや秋桜
宵闇や水槽に餌揺れてゐる
看板のペンキの流れ山眠る
包まれるやうに包める木の芽雨
舌先に火傷北窓開きたる


小さきもの     米  七丸(むじな)
水引きの花に曳かれて七曲り
丁寧な嘘がつけないばつたんこ
約北緯36度火恋し
小さめの妹の編む冬帽子
小春日や赤子の足が天を指す
冬うらら出窓に二羽の雀かな
去年今年男一匹水に落ち
海沿いのレールが軋む梅の花
パン皿に土俵入りする桜餅
春の月地下二階からやっと来る


か す み     有川 周志(むじな)
冬晴や飛行機雲は垂直に
満員だつめろつめろと冬菜畑
レポートの更新保存去年今年
初空に靴の重さを感じけり
成人の日の子周りの子を評す
猫の恋三人目さえいなければ
あなたをみているのかかすみをみているのか
ゆれている後部座席に春の夢
春休机の上の五六冊
エイプリル・フール階段踏み外す


詩 語 来 る    谷村 行海(街・むじな・はなぞの)
古書店にカレーの香る小春かな
古傷を晒す素足やしやぼん玉
夏の日を集め円盤投げらるる
夕凪や骨折の子の通知表
TKOかませば百万鱗雲
松手入帽子のつばに葉をためて
カラフルなカーディガンみな補習へと
朝練の吹奏楽部着膨れて
詩語来るマフラーうまく外せぬ時
串カツのソースへ冬夕焼の照り


鬱 金 香      武田 菜美(銀化)
夜濯の濡れ手に星をつかみけり
埋草の筆怱々と夜盗虫
叢雨の後の再然蝉時雨
芬々と生木の乾く鵙日和
舌頭に七転出羽の秋茄子
剥製の目玉ぎろりと神無月
灯心は油に溺れ近松忌
蟇穴を出て墓守の貌をせり
コギト・エルゴ・スム鬱金香笑ふ
たんぽぽぽぽ黄泉路の起点このあたり

営   み      本田  葉(澤)
花冷や学舎の基礎を高う抜き
柱あらはし校舎の基礎を春の風
基礎高の新設校舎鳥帰る
海猫渡る午後の市場に魚網のみ
堤防の四間高や春の潮
堤防のそばにビストロ春灯し
本日のおすすめ書きよ煮の眼張
浜食堂の刺身味噌汁北寄飯
浜食堂の幟十本はたたきぬ
フェイスシールド越しの対面ばなな買ふ

春 の 雪     浅川 芳直(駒草、むじな)
いづこより湧きしいなごか三丁目
野分後のポンプの水や鳩猛る
式場の造花に冬の陽は溢れ
足裏を凝らして稽古納めかな
図書館へ日はやはらかに花アロエ
甲冑の髭撥ねてゐる御慶かな
もさもさと梳く立春の髪の量
滾る湯へ放るあぶらげ春の雪
頁繰り返す視線の冴返る
雛祭上着薄手にしてゆかむ


蜘 蛛 に 鏡    小田島 渚(銀漢、小熊座)
廃屋の庭夏帽のリボンゆれ
初夏のパティオおそろしく静かな器
蜘蛛つつと鏡のなかをまつすぐに
蛇苺摘むとき此処は誰かの夢
水面行く蛇の一途や隠れ島
黑瑪瑙の襞疼き出す熱帯夜
鉄鎖切れ銀河の淵に黑揚羽
闇に素足入れ火のやうな街を出る
目覚めゆくほど桃熟れてシエナの街
バベルの塔伝書鳩を放つは今

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仙臺俳句会2020(通算第2号) ※無断転載禁止
2020年7月20日発行/発行人・小田島 渚
ご感想、お問い合わせ等 sendaihaiku★gmail.com
(★→@)

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