【1%ノンフィクション】Vol.0961(2010年9月8日発行のブログより)
遅刻の治療法
乙は生来の遅刻魔だった。
甲は待ち合わせにいつも⼀流ホテルのラウンジ を指定するようになったのは乙のおかげだった。
どれだけ待たせられても心置きなく本を読むことができるからだった。
乙はファッション雑誌のモデルをしていたくらいの美人だったのに、
いつも遅刻が原因で呆れかえられてフラれ続けの人生だった。
モデルをクビになったのも度重なる遅刻が原因だった。
乙はどんなに遅刻しても甲に捨てられないのが怖かった。
人生初めての経験だったからだ。
でも、本当は甲に怒って欲しかった。
そうでもしないと、甲はある日突然乙の前から姿を消しそうだったからだ。
「この人は将来とてつもない大物になる」
乙にはそれがよくわかっていた。
「この人とは別れたくない」
とも思っていた。
乙が待ち合わせのラウンジにいつも通り小走りにやってきた。
いつも通り甲が読書に熱中している⼤きな背中が見えた。
「待った?」
と乙はわざと怒られるように軽く言った。
甲は読んでいた本をパタリと閉じて平然と言った。
「オレもちょうど今来たところだよ」
乙は自分の不甲斐なさに涙が溢れた。
テーブルの上には、
氷の溶けきった薄茶色のアイスコーヒーの表面のすっかり乾いたグラスが
置いてあった。
誰の目から見ても1時間以上待っていたのは明らかだった。
最後までグラスを下げなかったのは、ホテル側の粋なサービスだったのだ。
それ以来、乙は⼆度と遅刻しなくなった。
...千田琢哉(2010年9月8日発行の次代創造館ブログより)
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