季節の移り変わりとジェラート
初めて常連と言えるくらいに通い詰めたお店、それはコーヒーショップでも街のパン屋でも安くておいしい居酒屋でもなくジェラテリアだった。
東京、阿佐ヶ谷のジェラテリア。
「Gelateria SINCERITA」
そこはJR阿佐ヶ谷駅北口を出て7~10分ほど歩いた落ち着いた商店街の中にある「SINCERITA(シンチェリータ)」というお店。シンプルで整然と整えられた洗練された空間だけど、無機質というにはあまりにも温かみがある、まさに“日常の中の特別“がそこにはあった。
シンチェリータとの出会い
「ジェラートを食べに行こう」と彼が言ったのは、ジリジリと照りつける太陽の季節…ではなく確か暑さのピークも過ぎて少しずつ風が涼しくなってきた頃のこと。
幼い頃から冷蔵庫にはいつでも何かしらのストックアイスがあるような家で育ったから、1日の終わり、お風呂上がりには必ずアイスを食べるくらいには大好きだった。アイスもジェラートも一緒くたにしていた私は喜んで着いて行った。それももう3年以上も前のことになる。
彼がまだ小学生の頃、近所にトルコアイス屋さんができたと思って行ってみたら、アイスが全然伸びなくて、ぽかーんとしていたという話を聞きながらそこに向かった。
(ジェラートと聞いても、彼も私もシンチェリータに行くまではどこかぴんと来ていなかった。冷たくて甘くておいしいアイスのような…と。)
そんなに昔からこの街にジェラテリアがあったなんて。
しかし驚いたことに辿り着いた先にあったのは、ひっそりと営む商店街のジェラート屋さん…
ではなく、10年以上も前からそこにあったとは思いもしない、外観も内装も洗練されたシンプルな佇まいのお洒落な“ジェラテリア”だった。
通いたくなるお店って…
綺麗で洗練された内装の建物に足を踏み入れるとき、それはどこであっても少し敷居が高く、慣れるまでに緊張してしまう気持ちがある。そしてそういうところはどんなに好きでも恋焦がれても、いつまでも“非日常”の一瞬だ。どうしても馴染みのあるあのおでん屋や和菓子屋と同じにはなれない。ならない。“馴染まない”という良さがある。そんな格好良さがある。ただ、どうしてもふらっと足が赴く、気付いたら向かってしまっている馴染みの店には勝てない気もする。
でも「SINCERITA」には、一切敷居の高さを感じさせない温かみがあった。
それは目の前のお花屋さんから運び込まれた季節ごとに変わる植物がそうさせるのか、色とりどりのジェラートのイラストとゆるやかにカセットテープから流れる音楽か、それとも店員さんの優しさと被っているベレー帽か。
きっとそのどれもがあの空間の温度を作っている。そしてこの街から愛されている。そう感じる暖かな空気が迎え入れてくれた。
日常の中にある“特別”
私はすぐにシンチェリータが好きになった。
そして、私の日常の中にシンチェリータが馴染むのもそう時間はかからなかった。
それからは、バイト終わり、勉強の合間、デートの待ち合わせに、何でも理由を付けてお店に通った。
でもやっぱり食べたくなるのは、
いつもよりちょっとだけ頑張った日。それは、いつもは掃除しないところを少し早く起きて掃除した休日のような
もしくはディナーに行くわけでもない中途半端な記念日だったり
雨が降ってどこにも行けないから昔好きだったドラマをレンタルしに行く帰りだっていい
久しぶりに会った友達と一緒に食べに行くのにもいいかもしれない
それくらい些細な、些細だけど大切な、日常の中の“特別”な日だったりした。
そんな日にぴったりの、ふらっと寄れて背伸びしないけど、ジェラートを食べれる至福の時間が私にとっては何よりものご褒美だった。
(実は、私はシンチェリータに通ってから、物心つく時からの習慣だったお風呂のアイスを自然と食べなくなっていた。)
その気軽に立ち寄れる雰囲気と何度も行きたくなるほどの飽きのないフレッシュでジューシーでコクのあるジェラートのおいしさが更に足を運ばせた。
季節の移り変わりとジェラート
シンチェリータは、季節ごとに味のラインナップが変わる。
それも楽しみの一つだった。
春になると、いちごやミモザ、杏仁などの甘酸っぱさが
夏には柑橘系のフルーツやカモミールなどのハーブの爽やかさが
秋には栗やさつまいもなど旬の野菜の甘みが
冬には毎年恒例カカオフェスの濃厚なチョコレートが
四季折々に口の中を、心の中を満たしてくれた。
思えば、季節の変わり目を意識し始めたのも、もしかしたらシンチェリータのおかげかもしれない。
20代も半ばに近づくと、いろんな街に出かける中で、こんな街に住みたい。とか、そろそろ実家を出ようかな。なんて考えてくる。特においしいお気に入りのコーヒー屋さんなんて見つけてしまった時なんて特に…
こんなお洒落でおいしいコーヒー屋さんに朝早くから通えたらなんて素敵なんだろう!と
ただ、帰りの電車に乗って、ふと、思った。
「帰ったらジェラートを食べよう」
もしかすると、どんな素敵なお店がある街よりもジェラテリアがあるこの街は魅力的なのかもしれない。と
今回紹介したお店
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