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アンドロイド転生1046

2120年8月18日
東京都 吉祥寺 スズキ邸
エリカが転生して4日目のこと

“我が家に天使がやって来ました!”
スズキランはSNSに記事と画像をアップした。赤ん坊のエリカが笑った姿である。直ぐにお祝いのコメントが続々とやって来た。

彼女はガーデニングのアマプロとして人気のブロガーだ。以前からベビーを迎える事や女の子で“エリカ“という名前に決めている事をアップしていた。とうとうお披露目の日が来たのだ。

ベビーは人間の生後半年に相当し、ミルクの代わりに哺乳瓶で純水を飲む。肌の保湿の為である。全てマニュアルで動く。赤子らしい仕草をするのだ。まるで人間の赤ん坊のように。

最初は無垢だが教えていけば“パパ、ママ“と呼び、言葉も理解するようになる。少しずつ人工知能が育っていくのだ。お座りも這う事も出来る。泣きも笑いもするし玩具で遊ぶ。

愛らしいことこの上なく、人々は挙ってベビーを求めた。ランも同じだ。しかし本当は我が子が欲しかった。だが彼女は卵巣嚢腫という病に罹り、両方の卵巣を摘出してまったのである。

つまり自分の遺伝子を残せないのだ。しかし愛する対象が欲しかった。けれども夫妻は科学の力も養子も望まなかった。ならばとベビーアンドロイドを選択したのだ。

オーダーで2人に似せて造られた。特にランによく似た垂れ目は愛らしかった。イヴはベビーがラボで完成した直後、クラウドに保存していたエリカのメモリをインストールした。

スズキ夫妻は待望のベビーを迎えて喜んだ。人間だとかマシンだとか関係がなかった。エリカとたった4日間を過ごしただけですっかり愛情が芽生えていた。守る対象がいる。それが幸せなのだ。

・・・

2120年8月18日 夜
フランス 某ホテル

『…と言うのがエリカの状況です』
リョウとミアの目前にはイヴのホログラムが浮いていた。リョウは感心したように頷く。
「エリカって名前を見つけたんだ…」

『はい。同じ名前の方が喜ぶだろうと思いました。ブログを発見し、スズキ夫妻を調べたところ親代わりとして相応しいと判断しました。彼らは理性的で愛情深い性質です』

リョウは満足げに頷いた。
「そっか。愛情深いんだ。じゃあ…俺も安心だ。イヴ。いいぞ。有難うな」
『こちらこそ』

ミアも感心していた。
「イヴは何でも分かっちゃうのね」
『webの世界は情報網ですので』
スズキランの趣味も病歴も全てお見通しだ。

リョウは疑問を投げかける。
「で?エリカは…勿論…あの時のエリカなんだよな?丸きり赤ん坊になった訳じゃないよな?」
『はい。機能停止するまでの記憶があります』

「そっか…そうなんだな。でも喋れない?」
『ええ。今は言葉を発せませんがやがて機能出来るようになります。ですが喋れても片言です。その方が赤ん坊らしくて可愛いのです』

「でもイヴとは通信で繋がってるだろ?なんて言ってた?文句タラタラだろ?」
あのエリカが赤ん坊なんて素直に喜ぶとは思えない。イライラとしているのが目に浮かぶ。

『喜んでいましたよ』
「え!マジか?ほ…ホントに…?」
『はい。最初は不満を露わにしていましたが今ではチャンスを与えられたのだと理解したのです』

リョウはイヴを見つめながらその目は素通りしてエリカを思っていた。やがてホッとしたような顔をする。心配で堪らなかったのだ。
「そうか…理解したんだ…」

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