アンドロイド転生1057
2120年8月26日 深夜
平家カフェ 客間にて
「どこを好きになったの?」
キリは布団から起きて膝を立てて座ると手に顎を乗せて隣で横になっているミアを見つめた。一晩語り明かそうと決めて女同士で寝室を共にしたのだ。
ミアはドアを見た。向かいの部屋にはリョウと寝るタカオがいる。彼らもまた長い別れとなるのだ。積もる話があるだろう。
「リョウは…信念があるから…」
キリは吹き出した。
「ま…まぁ…確かに信念はあるけどね。謝罪にイギリスに行ったし。でもそれ以外は疎いよ。あ。疎いって分かる?知らない事だらけ」
ミアも笑った。
「うん。確かに…。イギリスに来た頃は全部が初めてだってビックリしてた。でも…そういう事も素直に言うの。知った風な事を言わないの」
「へぇ…」
「いつも真剣に感心して喜んで吸収するの。そして…自分の知ってること…例えばコンピュータとか。全然自慢しないの。威張らないの」
するとミアは真剣な顔になった。
「リョウは私の為に痛い思いをしたの」
そうなのだ。ミアは元恋人に復縁を迫られて無理矢理連れて行かれそうになった。
リョウは何の躊躇いもなくそこに割って入ったのだ。結果は惨敗。1日入院する程の傷を負った。キリは目を丸くする。
「へぇ!あのリョウが!やるじゃん!」
「でも…喧嘩は負けたけど…勝ったの。得意のスキルで相手の罪を見つけて暴露するぞって。で…元カレは退散したの。リョウは強かった」
「ミアさんの事が好きだったんだねぇ…」
ミアは吹き出した。
「でもね?私が好きって言ったら“分かってる“って。LoveじゃなくてLikeだと思ったの」
「だろうね」
キリはニッコリとした。
「だってこんなに可愛い子がLoveだなんて思わないよ!私だってビックリしたもん」
「リョウは素敵。大好き。ずっと好き」
キリは胸がいっぱいになる。リョウの過去を振り返った。身なりに構わず、自分と夫以外の人と殆ど付き合わず、リペア室に篭りきり。一生をホームで終えると言っていたのに。
「ミアさん。有難う。リョウは本当にいい男になった。外見だけじゃなく内面だって磨かれた。何もかもあなたのお陰。凄く嬉しいよ」
「私も…キリさん達と家族になれて嬉しい」
・・・
(翌日 早朝)
誰よりも早く起きたリョウに誰もが驚いた。
「あんた覚えてる?2年前にイギリスに発つ時、いつまでも起きて来なかったんだよ!」
「キリ。人は変わるんだ」
またもや誰もが呆気に取られてやがて大笑いした。店主が人は成長するんだなと言ってリョウの背を叩いた。リョウは気取った顔をする。
「叔父さん。旨いコーヒーを淹れてくれ」
・・・
(成田国際空港にて)
「達者で暮らせ」
「ミアさんや、あちらの家族を大事にしてね」
タカオとキリの言葉にリョウは頷く。
「2人もな。ホームのこと…宜しくな」
キリはミアと抱き合った。
「また来てね」
「いつかイギリスに来て。リョウがカッコ良く案内してくれるよ。スマートだよ」
時間になり新婚夫婦は歩き出す。タカオ達はゲートで見送った。いつまでも4人は手を振った。共通しているのは笑顔だ。いや…違う。キリの瞳が赤かった。喜びとほんの少しの寂しさで。
※リョウがミアを助けたシーンです
※初めて渡英した朝のだらしのないリョウです
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