アンドロイド転生1044
2120年8月14日 深夜
フランス 某ホテル
リョウは幸せだと実感する度に心に棘が刺さったような気持ちになった。アンドロイドのエリカを思い出すのだ。イヴに相談したところなんとエリカのメモリがクラウドにあると言う。
リョウは仰天した。イヴは村長の指示に従ったそうだ。居ても立っても居られなくなった。時間を確認する。こちらは深夜だが日本は朝の7時。よしと決めて村長であり伯父のサトシに連絡を取った。
老齢男性の立体画像が宙空に浮かぶ。リョウは身を乗り出した。気持ちが急いた。
「イヴから聞いた。エリカを残したって?」
『ああ。そうだ』
サトシは遠い目をした。
『あまりの悪事に機能停止はやむ得ないと思ったんだが…やはり可哀想でなぁ…。孫のような存在だったし…いつかチャンスを与えたくてなぁ…』
「伯父さん…有難う。有難うな」
サトシは照れたように笑った。するとリョウの口元が横に広がった。ニヤリとする。どうだ?エリカ。人間はやる時はやるんだぞ。
2年前の春。エリカを機能停止した。罪状は脅迫、密告、誹謗中傷(自殺未遂まで至った)、盗撮だ。数々の非道にキリはエリカを許さなかった。そしてリペア室に呼び出した。
その場に責任者としてサトシが立ち会った。機能停止を宣言するとエリカは怒りを露わにして最後まで反省する事なくこの世を去った。誰もが彼女の幼稚な精神を導けなかった事を悔やんだ。
『リョウ。エリカは子供だったんだ。タウンではたったの3ヶ月しか知らない。そしてパートナーアンドロイドとしての依存性に支配されたんだ。だから村に来てもタケルに執着した』
リョウは残念な顔をして頷いた。
「うん。タケルが好き過ぎておかしくなったけど…もっと色んな事を…正しい事を…教えたかったよ。今になって可哀想に思えるんだ…」
サトシは微笑んだ。
『で?お前はどうしたいんだ?』
「うん…エリカを復活させたい。なんか…俺ばかり幸せで…心がパッとしないんだ」
『分かった。そうしよう。だがな?これだけは…譲れないんだが…キリをこの場に入れるのはナシだ。エリカを葬ったキリを否定する事になる。アイツは俺の娘だ。心を騒がせたくない』
リョウはそうだろうなと思う。本当は自分が機能停止にするべきだったのに、キリがリペア室の責任者だとして汚れ仕事を担ったのだ。今更、復活させてくれとは言えない。
「じゃあ?どうする?」
『イヴに頼もうじゃないか』
「そっか…そうだな」
そうだ。こんな時はAIが役に立つ。
其々の場所にイヴの画像が浮かぶ。
『ではご提案です。TEラボで製造されたアンドロイドに密かにエリカのメモリをダウンロードをするのは如何でしょうか?』
リョウは嬉しくなった。イヴは微笑む。
『どのようなアンドロイドが宜しいですか?』
リョウは腕を組んで考え始めた。
「外見は前のエリカと似た方がいいかなぁ?」
サトシは真面目な顔をした。
『うん…あとは…エリカには誰か教え諭す者がいると良いんじゃないか?アイツは幼稚だからな。メイドか?それともなんだ?』
教え諭す…?リョウはハッとなった。
「伯父さん!いいのがあるぜ!エリカにはピッタリだ!あのさ…?」
リョウの提案にサトシは目を丸くした。
※エリカが死んだ時のシーンの抜粋です