アンドロイド転生1043
2120年8月14日
フランス 某美術館
リョウとミアは新婚旅行中。歴史ある施設を訪れていた。中庭にやって来ると5体の天使の銅像があった。ミアはそのまま通り過ぎる。間もなくリョウがいない事に気が付いた。
振り向くと彼はひとつの銅像を見上げていた。ミアが戻るとリョウは呟く。
「エリカに…似てる…」
「エリカ?」
「そう。ホームにいた…アンドロイドのエリカ。白人モデルで…天使みたいだったんだ。見た目はね。中身は悪魔だったけど」
「ああ…教えてくれたね」
ミアはエリカを思い出した。ハスミエマを貶めた主犯格だ。制裁が下され機能停止した事をリョウから聞き及んでいる。ミアも銅像を見つめた。
「綺麗ね…こんなに綺麗だったんだ…」
・・・
1時間後。美術館から出るとカフェでひと休みをした。リョウの表情に覇気がない。
「どうしたの?元気ないよ?」
「うん…俺さ…今になって…後悔してる」
ミアは目を丸くする。
「え!後悔⁈結婚を⁈」
リョウは慌てて手を振った。
「ち、違うよ!まさか!そんな事ない…!」
「じゃあ…何を?」
「うん…」
するとリョウは目を落としカップを見つめた。その瞳が暗い。コーヒーのように漆黒だ。
「俺は…今…めちゃくちゃ幸せなのに…エリカにはそのチャンスがなかったんだなって…」
ミアは嗚呼と頷く。どうやらまだエリカに思いを馳せているようだ。
リョウは溜息をついた。
「アイツは根性がひねくれてて…マジで最悪だった。機能停止なんて当然だと思った。でも…可哀想だったな…。他に方法はなかったのかな…」
ミアは思いついた。
「タケルは…人間からアンドロイドに生まれ変わったんだよね?エリカも生まれ変われないかなぁ?それは無理かなぁ?」
その言葉にリョウはハッとなる。輪廻転生は無理だとしても…エリカは…マシンなのだ。もしかして…。リョウに閃きが生まれた。
「ミア!有難う!ちょっと希望が持てた!」
・・・
(深夜 ホテルにて)
ミアの健やかな寝息を聞いてリョウは安心する。ベッドを抜け出してリビングにやって来た。イヴにコールする。彼女のホログラムが宙に浮いた。いつもと変わらず優しく微笑んでいる。
『今晩は。ご結婚おめでとう御座います。旅は如何ですか?楽しんでいますか?』
「うん。フランスも素晴らしいな」
『それは良かったです。見識が広がりますね』
リョウは頷くと下唇を舐めた。
「あのさ?イヴに相談なんだけどさ?エリカを復活する事って出来るかな?」
『機能停止したマシンの復活は無理です』
リョウは肩を落とした。
「そっか…ダメか…」
『ですがメモリがクラウドにあれば新しい身体にダウンロードする事は可能です』
リョウは舌打ちをする。エリカのメモリなどないのだ。イヴは微笑んだ。
『とうとうその時が来たようですね』
「え?」
『あの時…エリカを機能停止する直前…彼女のメモリをコピーしてクラウドに保存しています』
「え?ええ?そ…それって…イヴの判断で?」
『いいえ。村長に指示されたのです』
リョウは呆気に取られた。村長とはホームの責任者でありキリの父親でリョウの伯父だ。
「お、伯父さんが…」
イヴはニッコリとした。
※リョウがミアに打ち明け話しをしたシーンです