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アンドロイド転生1194

2127年4月15日 午後
銀座大通り

街を歩いていたソラは寄付を募られて、戦争をテーマにしたギャラリーに訪れた。胸が痛くなるような作品が多かった。見終わるとギャラリーの隣のカフェで休憩を取った。

「あ…ひと休み?」
顔を上げると、先程ギャラリーで声を掛けられた女性。名前は…。
「タカハラさん」

タカハラは目を丸くする。
「何で知ってるの?」
「さっき…男の人がそう呼んでたから」
「そっか」

タカハラは隣に座ってニッコリとする。
「じゃあ…君の名前も教えてもらおっか」
「スオウソラです」
「うん。私はタカハラナツ。ヨロシク」

※ここでタカハラナツについて読者にお知らせしよう。彼女はナニーアンドロイドのサツキ(アオイの親友)の育て子だ。人は誰かと縁で繋がっていて、こうやって世界を形作っているのだろう。

ナツ。素敵な名前だなとソラは思う。それに彼女には夏の空のように清々しい印象があった。優しい微笑みながら快活なイメージもあり、自信と向上心に溢れているように見えた。

ナツは親し気に話し続けた。自分はギャラリーで働いていると。画像が好きだと。世の中には色んな事実があるのだと知って欲しい。そのきっかけになれれば良いと思っていると。

「あ。でもね?今回は戦争がテーマだけど、違うのもあるんだよ。気持ちが明るくなるのもあるよ。様々なジャンルを取り扱ってるの」
「そうですか」

「ソラ君は大学生?」
「そうです」
「専攻は?」
「経済学部です」

ナツはニッコリとした。
「ヒト、モノ、カネを学ぶのね。そこに愛があれば最強だね」
ソラは感心した。そうか。愛か。

「ね?うちでバイトしない?」
「もうバイトしてるんです。カフェで。新宿の平家カフェです。知ってるかなぁ…」
「あ!知ってる!有名だよね。今度行ってみる」

ナツは時間を確認すると慌てて食事をかき込んで平らげた。そして勢い良く立ち上がった。
「休憩終わり!またね!」
風のように去って行った。

・・・

1週間後 4月22日 正午
平家カフェ

約束通りナツはやって来た。本当に来てくれたのだとソラは嬉しくなった。
「いらっしゃいませ」
「お任せランチね!」

ソラは食事を運んでチラチラとナツを見た。年頃は23歳?それとも24歳?自分よりは年上だ。ギャラリーで働いているのだ。社会人だ。だが小柄で少女のような可愛らしさがある。

ナツは楽しそうに料理を口に運んだ。それが嬉しい。食後のコーヒーを運ぶとナツは微笑んだ。
「美味しかったぁ…。やっぱり人が作るのには愛があるね。愛が」

ナツは身を乗り出した。
「ねね?ソラ君は応用と理論はどっちが好き?」
「え…もしかしてナツさんも経済学部?」
「そう。だけど環境学の方が良かったなぁ」

「僕もそう思います!」
ソラは何度も頷いた。何だか嬉しくなった。そうなのだ。環境問題に関心のあるソラは本当はそちらを学びたかった。

だが父親は経済学部を勧めた。彼はソラを跡取りにと望んでいる。いずれはスオウグループのトップにしたいのだ。だから従った。ソラは父親の意に従う子供なのだ。

ナツはニコニコと嬉しそうだ。
「ね!うちのギャラリーは色んなジャンルだって言ったでしょ?今度は動物。ほっこりするよ。来て」
ソラも笑顔になって必ず行くと答えた。


※サツキとナツが再会したシーンです


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