アンドロイド転生1133
2126年6月30日
目黒総合病院にて
急性骨髄性白血病に侵されたサキを救うには造血幹細胞移植をする必要がある。HLA検査の為にホームからやって来た両親だが国民ではない事や年齢がネックになってしまった。
ならば1日でも早くドナーの適合者を見つける為に国民登録してある血縁者を当たった方が良い。親戚の中でもシオンはサキと1番血が近い。2人の型が適合する可能性に賭けたくなった。
しかし彼は現在フランスにおり、モデルとして明日からパリコレに登場する。今回は多くのデザイナーをランウェイに導く役目を担っていた。このショーはシオンの更なる飛躍に繋がるのだ。
ケイはそれらをコレクションのHPで知ると事実を淡々と語った。サキの母親のアカネは口元に手を当てて首を振った。泣きそうな顔になる。
「そ…そんな大事な機会を…奪えないわ…」
父親のヒロシの顔色が青くなった。
「その…パリコレってのはいつまでなんだ?」
ケイは力なく溜息をついた。
「明日から1週間です」
ヒロシはナースを見やった。
「1週間ってどうなんだ?余裕はあるのか?娘は大丈夫なのか?」
「私からは申し上げられません」
・・・
1時間後
ヒロシ達は医師アンドロイドと対面した。
「通常、患者は移植前に化学療法を行います。本人の体調を鑑みて約1週間程です」
「じゃあ…パリコレが終わっても間に合うな!」
「ドナー候補の到着はいつになりますか?」
「8日…もしくは9日後なんだが…」
「残念ですがサキ様は直ぐにでも移植をすべき状態なのです。かなり重篤な為、時間がありません」
そうなのだ。彼女の癌化のスピードが早いのだ。
「ドナー候補のHLAが適合しますと、更に様々な検査があり健康を確認する必要があります」
それもそうだと3人は改めて納得した。
「晴れてドナーになった場合は3日間の前処置があります。本人の血液を採取して移植後に戻す為です。つまり患者もドナーも同時進行なのです。側にいることが重要なのです」
※ドナーは移植の際に大量の骨髄液を採取されます。その為輸血が必要になるのです
・・・
診察室を出るとヒロシの瞳が決意を帯びた。
「分かった。ドナーは側にいた方がいいんだな。よし。国民登録している血縁者全員に検査をしてもらおう」
妻のアカネは頷くもののオロオロとした。
「そ…そうね。で…でも…型が一致しなかったら…?あの子は…どうなるの…」
「そんな事を言うな!」
言い放ったもののヒロシの心にケイの言葉が渦巻く。サキとシオンは1番血が近いのだと。だがシオンの到着までは待てない。しかし型が適合するかもしれない。いや…しないかもしれない。
「シオンに…取り敢えず…検査して貰うか…」
「型が合っても無理よ!間に合わないのよ!」
「違う。反対だ。型が合わなかったら諦めがつく。それにシオンは怒るぞ。何で知らせなかったと」
アカネは黙り込んだ。確かにそうだ。シオンならそう言うだろう。家族なのだ。当然だ。
「そ…そうね…そうよね…」
「だろ?おい?ケイ。お前もそう思うだろ?」
ヒロシの問いかけにケイは頷く。
「そろそろ正午ですが…フランスは朝の4時です。あと2時間したらコールしてみます」
「うん。頼む」
するとずっと膨れっ面のノアがとうとう泣き出した。大人達の難しい顔も、不穏な空気感も、母親にいつまでも会えない事にも限界が来たのだ。ケイはノアを抱き上げて背中をさすった。
「ママに会いたい〜!」
「じゃあクリーン病棟に行こうな」
「嫌!嫌!ちゃんと会いたいの!」
ディスプレイ越しの面会は不満なのだ。