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アンドロイド転生1200
2127年8月
都内某所 ユリウスの住まいにて
執事が恭しく紅茶を注いだ。湯気がほわりと立ち昇る。マカロンを添えると笑顔を見せた。
「手作りです。お2人の甘い時間を演出します」
彼は粋な言葉が得意なのだ。
ユリウスはお茶を飲むモネを見つめた。
「モネ。いい顔をしてる。なんだか…サリバン先生がガーディアンのように君の背後で笑っているようだよ」
「ホント?有難う…!」
「うん。凄く綺麗だ」
実際にモネは良い顔つきだった。美しいのは勿論のこと、その表情は自信に満ち溢れていた。
モネはヘレン・ケラーの稽古を思い出した。ヘレンやアオイとバトルの毎日だった。青痣が絶えなかった。でもそれだけアン・サリバンを演じる事に情熱をかけたのだ。
「君のサリバン先生は感動したよ。勿論ヘレンも。2人の相乗効果で素晴らしい作品だった」
「有難う。でも…私達2人だけじゃない。スタッフや役者達や…そして監督のお陰」
「うん。そうだね」
「皆んなの力と思いが実を結んだの」
確かにそうだ。1人で作り上げたのではない。皆が一丸で取り組んだのだ。
ユリウスは大きく頷いた。
「うん。人は1人じゃない。周りの協力があって、そうやって生かされてるし…そしてまた活かされている。活躍の活だね」
言語学者を目指しているユリウスの言葉らしいとモネは笑う。外国人だと思えないほど日本語に造詣が深いのだ。しかも彼は別の顔を持っている。デンマーク王国の王子だ。
彼の佇まいは気品に溢れており只者ではないオーラを醸し出している。金髪碧眼。まるで物語から飛び出したような美しい容姿。優雅さと力強さを兼ね備えていた。
モネはクスリと笑った。でも「王子様らしい佇まいの彼」なのにドジでおっちょこちょいなの。ぶつかったり転んだり、物を落としたり。そんなところが可愛いの。
モネはそっと手を伸ばしてユリウスの金髪に触れた。優しく指で弄ぶ。そんな仕草を自然に出来るようになるほどに2人は親密になったのだ。初めてのキスを交わした頃とは違う。
2人が交際してから1年半が過ぎた。若手女優として目覚ましい活躍を見せるモネ。東京大学に通い、いつかは言語学者になるという夢があるユリウス。だが王子としての重責もある。
2人とも多忙な日々だが互いを支え合い、愛を育んでいた。穏やかで控えめなモネだが実は真の強いところがあり、ドジで明るいユリウスには格闘技の達人という一面があった。
25歳のモネ。28歳のユリウス。まだ若い2人は、したいことや、やりたいことが山程あってそれをお互いに応援し合っていた。切磋琢磨するという言葉がぴったりだ。
そしてユリウスはモネと共に人生を歩みたいと強く願っていた。2人の交際を両親は見守っているが結婚となると違うのか。王子という立場が障壁になるのか。
だが王族離脱になったとしてもこの思いを貫くつもりだ。ユリウスはモネの手を取り、彼女を見つめた。その瞳には揺るぎない決意と深い愛情が宿っている。
モネの瞳にも愛と信頼と慈しみがあった。王子という立場に囚われず、一人の男性としてユリウスをずっと見てきた。
「大好き。ユーリ」
「愛してる。モネ」
ユリウスはモネを抱き寄せた。きっと幸せな未来を掴み取れる。そう思わせるほどに2人の愛は強く、そして美しかった。
※2人のファーストキスです