アンドロイド転生1078
2120年10月8日 夜
富士山8合目 ロッジ
タケルは仕事を終えて庭で星を眺めていた。登山客達は早々と床に入り明日のご来光に備えている。オーナーも休み、仲間のアンドロイドは充電中だ。静かな山の夜である。
イヴが通信して来た。
『ご報告があります。エリカの事です』
「ん?エリカ?」
『はい。約2ヶ月前に復活しました』
イヴの語るエリカの経緯についてタケルは驚きつつ最後は笑った。
「村長もリョウもやるなぁ。けれど…赤ん坊になったのか。ふざけるなって怒ってるだろ」
イヴも笑った。
『確かに最初は嫌がりましたが、今は満足しているようですよ。URL送ります。アクセスして下さい。エリカの母親代わりのブログです』
タケルはアクセスした。若い女性に抱かれてこちらを見ているタレ目の赤ん坊…。
「これがエリカなのか!可愛いじゃんか!名前も同じだ。え?なんで?偶然?」
『名前から探し出しました。主人達はベビーを迎える前からエリカと決めていたのです。彼らを調べたところ愛情深い性格だと確信し、親代わりに相応しいと判断しました』
「そうか…愛されて…幸せなんだな。良かった。本当に良かった…。安心したよ」
『はい。村長もリョウもそう言っています』
「うん。だろうな…」
『エリカがあなたに謝罪したいそうです。本当は会って謝りたいのですが叶わないので私が代理人となります。では彼女の言葉をそのままお伝え致します』
“タケルを愛していると思ってたけど…あれはただの執着だった。タケルにもエマにもとてもとても酷い事をした。私は間違っていた…“
タケルは驚いた。あのエリカからそんな反省の言葉が出るなんて。だがタケルの気持ちが楽になってきた。誰かを憎んで生きるのは辛い。忘れようと思っても心の奥にある棘が疼くのだ。
タケルは納得したように頷いた。
「そうか…アイツは成長したんだな…」
『身体は小さくなりましたが』
2人は笑った。
イヴは真面目な顔をする。
『エリカはパートナーとして誕生しましたが3ヶ月で主人に捨てられました。その傷が深かったのです。愛されたいと言う思いが高じました』
タケルも神妙な顔になった。
「うん。愛されたいから…俺に振り向いて欲しかったんだろうな。要は寂しかったんだな」
『そうですね』
彼はイヴを見上げた。
「俺からもエリカに伝えてくれ。愛する事が出来なくてゴメンってさ。本当に…ゴメンって」
『はい。分かりました』
イヴは話を変えた。
『タケルの暮らし振りは如何ですか』
「楽しいよ。人間は凄いな。何でも制覇する。どんな試練も乗り越える力があるって思う」
『ええ。困難を糧にして立ち上がって歩くのです。では…エマさんの近況をお聞きになりますか?』
タケルは暫く黙っていたが微かに頷いた。
「幸せ…だよな?」
『はい。イギリスの教会でボランティア活動をしています。音楽事務所に登録してピアニストとして活躍していますよ。最近は笑顔が多くなりました』
「そうか…良かった…本当に」
タケルは空を見上げた。漆黒に天の川が広がっていた。その美しさに惚れ惚れとなった。エマもエリカも遠い地で幸せなのだ。それなら満足だ。充分だ。もう何も言う事はない。
※タケルとエリカが初めて出会ったシーンです
※タケルとエマが別れたシーンです