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アンドロイド転生1190
2127年4月3日
品川区 タナカ邸(ルイのホストファミリー宅)
リビングのソファで胡座をかく義妹のマリコは2つのホログラムを眺めていた。服に手を突っ込んで腹をボリボリと掻いている。炭酸水を飲むと派手にゲップをした。
ルイは気にも止めない。マルコ(愛称)はそんな女だと受け止めている。9年近く共に暮らしてよく分かったのだ。するとマリコが振り向いた。
「アニキ。こっちに来い」
ルイが側に行くと、マリコは片方のホログラムを指差した。遺伝子検査の結果表だ。
「誰のか分かるか?」
「うん?」
日本人のゲノム解析が示されている。現代は50種類まで分類されているのだが…。ルイはジッと見つめた。
「…ヤマトだ」
マリコが満足げに頷いた。
ルイはそうかと思う。ヤマトとマルコは恋人同士だ。ヤマトは何度か両親にも会っていて交際を快く思われている。2人は次の段階に進むために遺伝子検査を行なったのだろう。
ルイも成人を迎えた時に検査を受けた。特に恋人がいるわけでもないが、健康診断のつもりで行ったのだ。その時の結果表のゲノム解析で分類されたものとヤマトが同じなのだ。
彼らは1000年前の平家の落人の子孫だ。山奥でひっそりと暮らして外界と遮断しており、近親婚を繰り返してきた。当然だがルイとヤマトは同じルーツに分類される。
マリコはホログラムを指差してニヤリと笑う。
「私とヤマトの遺伝子が結ばれた場合、遺伝性欠陥の確率は0.1パーだ」
「そうだな」
2人の間に遺伝性欠陥児が誕生する確率を言いたいのだが、どんな子供が生まれようがそれは尊い命である。マリコは自慢げに胸を張る。
「私は0.1に当たった場合でも子供を愛するぞ」
ルイは当然の如く頷いた。そしてマリコをジッと見つめた。昔の丸々とした面影もなくほっそりとしている。よくまぁ痩せたなと思う。愛の力は偉大だなと感心していた。
マリコのダイエットのきっかけは韓流スターのファンになった事だが、その前にヤマトに恋をしていたのだ。10歳の時にヤマトの画像を見ていつか絶対に会うのだと決めたらしい。
ブハッ!爆音が響いた。
「おっと!失敬!失敬!」
「おい。オナラは分からないようにするもんだ」
「私の腸内は空気の圧力が高いようだ」
ルイは呆れた顔をする。
「全く。ホントにおっさんだな」
「ルイはオタクだ。キノコと山登りと図書館。ああ…暗い。暗すぎる」
マリコはやれやれと頭を振った。
「アニキ。女を作れ。人生には潤いが必要だ」
「いらねぇよ」
「いつ筆下ろしするんだ」
ルイは目を丸くする。妹の口から飛び出したのは予想外の言葉だ。だがタウンの人間は思った事を率直に言う。そのあっけらかんとした口調に国民になった頃は驚いたものだ。
しかし「筆下ろし」とは。18歳の乙女が言うものかと呆れた。やっぱりマルコはおっさんだ。するとマリコはまたニヤリとした。
「ヤマトに先を越されるぞ」
「構わねぇよ。早い遅いなんて関係ねぇ」
「うむ。よく言った。その通りだ」
「はぁ?何だよ。矛盾してるな」
「ま。私もそのうち大人になるって事だ」
ルイはやれやれと頭を振った。
「はいはい。お好きにどうぞ」
妹が大人になるのは、やはり兄として心配な面もあるのだがヤマトなら安心だ。
彼は従兄弟だ。だが一緒に育った兄弟でもあり、幼馴染でもあり、そして親友だ。アイツは本当に優しくて真面目でいい奴だ。ヤマトなら絶対にマルコを幸せにする。間違いない。
※ヤマトとマリコは結婚しようと誓い合いました