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アンドロイド転生1186
(回想 17年前のこと 2110年3月25日)
ソラと母親のクレハ(スオウトシキの愛人)の邸宅
3歳になったソラの誕生日に20年も歳が離れた義兄のマサヤから残酷な言葉が告げられた。
「いいか?オマエは悪魔の子供なんだ」
その一言が幼いソラの心に重くのしかかった。
その後マサヤは会うたびにソラに言い続けた。
「悪魔なんだよ。みんなを不幸にするんだ」
「や、ヤダ…ど、どうすれば…いいの…?」
「そんなの自分で考えろ」
ソラは両親の顔色を伺うようになった。少しでも不機嫌そうな顔を見ると、慌てて楽しい話題を提供するのだ。両親はソラの気遣いに気付かず無邪気な子だとばかり思っていた。
彼らは息子を心から愛していたがソラは不安だった。自分の誕生は誰かを不幸にするかもしれない。そんな自分は存在していいのかと悩んだ。だって「悪魔の子供」なのにと思うのだ。
成長するにつれて身内だけでなく他人にも気を使うようになった。そしてマサヤはタイミング良く現れてソラに囁く。「愛人の子供は俺の母親を泣かせている」「お前は不浄だ」と。
ソラはマサヤの母親に申し訳なく思った。
「お兄ちゃんのお母さんは泣いてるの…?」
「兄ちゃんなんて呼ぶな。マサヤさんだろ。お前は悪魔の子だから弟じゃないんだ」
「ご、ごめんなさい。マ…マサヤさん」
「いいか?俺の母親はいつも泣いている。オマエとオマエの母親のせいで。ロクでもねぇオンナだ」
「そ、そうなの…?」
「そうだろうよ!親父を誘惑したんだ」
マサヤは怒りに駆られた顔をするが、内心では舌を出していた。ソラを虐めている事に喜びを感じているのだ。彼に道徳観念などない。
「ユウワク…」
ソラは呟く。誘惑の意味は分からなくても何となく卑猥な印象を受ける。母親の派手な化粧やセクシーなドレスが脳裏を掠めた。
「あとな?いいか?スオウ組は俺のもんだ」
「スオウ組って…?」
「親父の会社だ。お前は継ぐ権利はないぞ」
「う、うん…」
ソラの母親のクレハが笑顔でやってきた。マサヤは無言で立ち去った。ソラはクレハが悪いことをしたのだと思うのだがそれを指摘したくなかった。母親を悲しませたくないのだ。
ソラは慌てて笑顔を作る。
「ママ!その服すっごく似合うね!」
「ありがと!」
クレハはそんな息子の心情に気付かなかった。
8年前、マサヤが1年半の実刑判決を受けた。当時11歳だったソラは何も知らなかったが、今では事件の詳細について把握していた。父親の所有するクラブで乱闘事件があった。
マサヤがアンドロイドに戦いを命じた事で、巻き込まれた若者84人が命を落とした。マサヤは主犯格として罪を償う事になった。今は刑期を終えてスオウ組の小間使いをしている。
ある日、ソラはマサヤに呼び出され告げられた。「親父の身代わりになったのだ」と。もう子供ではないソラはマサヤの言葉に動揺する事はなかった。マサヤが主犯格だと分かっている。
しかし子供の頃から「悪魔の子供だ。みんなを不幸にする」という呪いの言葉に苛まれてきたソラにとって、マサヤが道を踏み外した原因は自分にあるのではないかと考えていた。
優しく穏やかで思いやりのあるソラは、いつしか「他人を傷つけてはいけない、自分は役に立つ存在になって、みんなを幸せにするのだ」という過剰な思いに囚われるようになっていた。
※ソラと両親が平家カフェに訪れるシーンです。楽しくしようと言うソラの気遣いが垣間見えます。