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アンドロイド転生1193
2127年4月15日 午後
銀座大通り
「お願いしまーす」
若い男性が立体画像を立ち上げて道ゆく人に声を掛けている。画像は焼け野原の大地に縫いぐるみ。心を打つ。ソラは彼の前に立ち止まった。
男性は優しく微笑んだ。
「ご寄付して下さいますか…?」
「はい」
ソラはリングを起動してペイを支払う。
「有難う御座います!あの…お時間ありますか?もし…宜しかったら…画像展も覗いて下さい」
「画像展…?」
「はい。あちらです」
男性に示されて先を見ると扉が開かれたギャラリーに多くの人が出入りしていた。
「分かりました。行ってみます」
男性は丁寧に頭を下げた。
ペイを支払ってギャラリーに入って行く。広い館内には画像が多く浮かんでいた。内容は心躍るものではなかった。戦争で被害を受けた街や人々だった。ソラはひとつひとつ眺めていった。
ある画像の前で立ち止まる。心に突き刺さる作品だった。裸体の女児がこちらに向かって走って来る姿だ。どうやら戦火から逃れているようだ。その顔には恐怖と絶望が浮かんでいた。
ソラは胸が痛くなる。こんなに幼い子供が身にまとう物もなく保護者もおらず1人で助けを求めているなんて。しかも身体は骨と皮だ。
「手を差し伸べたくなるね…」
その声にソラは振り向いた。若い女性も作品を見つめていた。顔に悲壮感が漂っている。
「ピリッツアー賞を取ったんだって。もう…100年以上の前の作品なの」
女性がソラに顔を向けた。
「この子供が…どうなったのか…分からない。生きていたとしても…もうお婆ちゃんだね…こんな小さい時に…怖くて悲しい事が起こったのね…」
「そうですね…」
「でも…人間は変わらない。反省しない。またどこかの国では戦争してる」
「100年経っても…平和にならないんですね」
女性は眉間を寄せて厳しい顔をした。
「そう。愚かなことを繰り返すの」
ソラも知らず知らずのうちに顔を顰めた。
「そうですね…」
男性がやって来た。女性に声を掛ける。
「タカハラさん。ちょっと…」
タカハラは頷くとソラに軽く会釈をして立ち去った。その後もソラは館内を回った。
どの画像にも希望が見られなかった。悲惨なシーンも多くあり目を覆いたくなる。平和な日本では考えられない事だが地球の何処かではいつも争いが起こっては止み、また起こるのだ。
心優しいソラは感極まって悲しくなってくる。人々や子供達を何とかして救いたいと思う。最後の画像に辿り着く。焼け野原の大地に小さな植物の芽が出ていた。少しホッとした。
喉が渇いたので隣のカフェで休む事にした。カフェラテを飲みながら考える。画像の人達はこんな飲み物がある事を知っているのだろうか。あの痩せた子供は腹一杯に食べた事があるのだろうか。
歓声がして振り返ると女子高生達がパフェに大喜びしている。カラフルな心踊るスイーツ。それを見たら彼らは仰天するだろう。一口食べて驚くだろう。夢のようだと思うだろう。
ソラは溜息をつく。どうして世の中は不公平なのか。だから何かしたい、助けになりたい。そう思いつつ、きっと僅かなペイを寄付するくらいが自分に出来る事なのだと諦めている。
自分は大学生。学ぶ事が柱だ。だがいつかは社会に出る。その時は学んだ事を活かして平和な世の中を作りたい。でも…それって詭弁なのだろうか。ソラはツラツラと考えた。