アンドロイド転生1074
2120年10月6日 朝
品川区 タナカ邸 ルイのホストファミリー宅
(ルイの視点)
玄関の前で家族全員がナニーアンドロイドを送り出していた。母さん(養母)が泣いている。
「今日までお世話になったわね。有難う」
「こちらこそお育て出来て幸せでした」
12歳の誕生日の翌日にナニーは去るのだ。
「マリコ様。どうぞお健やかにお過ごし下さい」
「じゃあな。お前もな」
俺はマルコの物言いに顔を顰めた。
マルコは女の子なんだがどうも口調がいつもおっさんだ。態度も太々しいし、身体も太い。頬も手も赤ん坊のように丸々としておりエクボがあった。俺はマルコと呼んでいる。
ふっとアオイを思い出した。モネのナニーだったそうだ。別れの朝、涙ながらに2人は抱き合ったらしい。モネは宝物のネックレスをアオイに譲った。それ程に絆が強かったのだ。
なのにマルコの様子はどうだ。朝からケロリとしていて、朝メシも人の2倍を軽々と食べた。しょっちゅう太ってるぞって揶揄うけど全然気にしない。怒りもしない。泣きもしない。
その丸々とした腹と同様にマルコは太っ腹なのだ。コイツには繊細などかけらもない。そして12年も世話になったナニーとの別れでもへっちゃらだ。廃棄になるかもしれないのに。
「マルコは寂しくないのか?」
「12年で終わりだって最初から知ってる」
「でもよぉ。泣けてくるとかよぉ」
「アニキはケータイが壊れたら泣くのか?」
その言い方に俺は呆然となる。暫くして息を吐いた。ま、いいか。マルコにとってはナニーはケータイと同じデバイスなんだ。アンドロイドが家族だと思って育った俺とは違うんだ。
タクシーがやって来るとナニーは乗り込み、タナカ家から去って行った。マルコはさっさと家に入り、好きなアイドルの歌を唄って呑気にスキップをしている。床にドンドンと響いた。
「おい。家が壊れるぞ。痩せろ」
そんな俺の言い方に心が折れるヤツじゃない。
「恋をしたら変わるかもね」
ニヤリとしてる。まったく言う事が最強だ。
確かに恋でもすればいいんだ。マルコは痩せたら凄く可愛くなると思うんだけどなぁ…。
「なんか腹が減ったな」
「おい!今食ったばかりだろ!」
・・・
今日は日曜日。学校は休みだ。マリコはリビングでお笑い番組を眺め始めた。ポテトチップスとドーナツを頬張りながら大笑いする。口も手も止まらない。気付くと全て平らげていた。
「オモロかったな。さて部屋に行くか」
マリコは部屋に戻り時間を確認した。もうそろそろナニーがラボに到着した頃だ。マリコはスマートリングを立ち上げてラボにコールした。
ラボの受付係にナニーのIDを告げる。
「今日。そちらに戻る事になっています」
「はい。先程到着しました」
「今後の予定を教えて下さい」
受付係は端末を操作して微笑んだ。
「オールAの評価の為、廃棄されません。今後は…またナニーになるか…メイドになるか…または臨時雇いになるかもしれません」
マリコは礼を言って電話を切った。万歳をしながら何度もやった!と叫ぶ。そして何度もジャンプした。丁度マリコの部屋の前を通ったルイは何を騒いでいるんだ?家が壊れるぞと思う。
マリコの頬を涙が伝う。家族は知らないが彼女は優しく繊細な心を持っている。それを表に出したりはしない。そんな強い部分があるのだ。自分の事は自分で解決するという信念なのだ。
※アオイとモネの別れのシーンです
※ルイとマリコのシーンの抜粋です