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アンドロイド転生1134

2126年6月30日 正午
目黒総合病院 待合室にて

病院にやって来てからノアは不穏な空気を察してずっと寡黙だった。だがいつまでも終わらない難しい話しに限界が訪れた。突然泣き出したのだ。ケイはノアを抱き上げた。

「ママに会いたい〜!」
「クリーン病棟に行こうな」
「嫌!嫌!ちゃんと会いたいの!」
ディスプレイ越しの面会は不満なのだ。

「もうイヤ!帰る!病院嫌い!」
大声で叫ぶとワーワーと号泣する。待合室に響いた。ケイはノアを抱いたまま外に向かって走り出した。

・・・

エントランスにて

ケイは身体を揺らして娘をあやす。
「大きな赤ちゃんだなぁ」
ノアは目を剥いた。
「赤ちゃんじゃないもん!5歳だもん!」

ケイは厳しい顔をする。
「5歳なのに大泣きしてるぞ。他にも病気の人が沢山いるんだ。我慢しなくちゃダメだ」
最もなことを言う父にノアは益々臍を曲げた。

顔を赤くして涙をポロポロと溢す。
「ノアちゃんは我慢したんだよ!ずっと!パパのバカ!降りる!」
ノアは地面に着くと背を向けて拒否の姿勢だ。

ケイは腰を落としてノアの背後から顔を覗き込んだ。笑ってみせる。だがノアは顔を逸らした。これは相当に不服な様子だとケイは思う。慰めの言葉をかけようとした。

すると祖母のアカネがやって来た。
「うんうん。頑張ったね」
アカネはケイに目配せをして孫に手を伸ばす。ノアはアカネを見上げてその手を掴んだ。

「もうお昼だもんね。お腹空いたね」
ノアは微かに頷く。どうやら味方を作ろうとしている。父親に対して怒りを表し、祖母には甘えを求めたのだろう。

するとノアは親指を咥えて吸い出した。ケイは驚く。そんな仕草はとうの昔に卒業したのだ。実はこれは不安に対する幼児らしいストレス発散なのだ。ケイは途端に娘が哀れになった。

アカネは微笑んだ。
「さぁ。バァバと何か買いに行こう。何が良いかな。あ。ママにモンブランを買おうね」
「うん…」

2人は手を繋いで行ってしまった。ノアはケイを見もしなかった。ケイはがっくりと肩を落とした。やはり子育てマニュアルをインストールしていても母親には勝てないのだなと痛感したのだ。

だが直ぐに気を取り直し、国民登録した血縁者達にコールした。誰もが驚き、即座に協力すると申し出た。続々と病院に集まって来て検査を行った。一致団結すること。それがホームだ。

2時になるとケイはシオンにコールした(フランスは午前6時)。間もなく宙空に画像が浮いた。
『やぁ。ケイ。久し振りだね』
「シオン…大事な話があるんだ…」

するとケイの隣に並ぶ顔を見てシオンは驚く。 
『え?伯父さん?あれ?どこにいるの?』
「タウンに来てる」
『あそう』

ケイとヒロシは事の次第を伝えた。シオンは黙って聞いており最後にしっかりと頷いた。
『分かった。病院に行ってくる。HLAの結果は直ぐに分かるんだな?』

「3時間後には分かるらしい」
『よし。病院が開くと同時に検査して貰う』
ヒロシはうんうんと何度も頷いた。
「シオン。有難う。有難うな」

※因みに2025年現在のHLA検査の結果は2週間後です

通話を切ってケイとヒロシはホッとした。これでシオンとサキの型が合わなければ諦めがつく。納得も出来るのだ。シオンはコレクションに参加出来るし将来は安泰だ。


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