アンドロイド転生1061
2120年8月27日
銀座にて
キリとマユミは気分転換にやって来た。碁盤の目のように区画整理された街並み。白い建物と緑と花のコントラスト。美しいが実はどこの地域も同じ景色なのだ。日本は統一感を美徳とする。
だが地域によって多少特色がある。店のウィンドウだったり品揃えだったり、飲食店のバリエーションなど。その店のひとつにベビーショップがあった。可愛らしい服が飾られている。
マユミは目を細めた。
「見て!なんて可愛いの!サキにプレゼントしましょうよ。ね!キリ、入ろう」
キリも微笑むと2人は店に足を踏み入れた。
広い店内は多くの人で賑わっている。昨今の日本は出生率が増加傾向だ。フレキシブルな時代で様々なパターンの命の誕生があるのだ。サキも然り。そして誰もが喜び祝うのだ。
キリは小さな服を手に取った。
「こんなのを着てたのねぇ。息子達は…」
「リツなんて30過ぎて可愛さなんて微塵もないわ。まだルイは10代だもの。可愛いわよ」
キリは顔を顰めた。
「いやいや…。10代なんて生意気で」
更に2人は話が弾む。最終的に母親達はやっぱり赤ちゃんの頃が1番だと言う結論に達した。
「あっ!だめよ!」
叫び声が聞こえてキリは振り向いた。若い女性がバギーの中の赤ん坊を見つめた後、キリの足元を見た。小さな犬の縫いぐるみが落ちている。
女性は申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさい…うちの子が縫いぐるみを投げました。そちらに当たりました」
「えっ!全然気が付きませんでした」
キリは縫いぐるみを拾って叩くとバギーの赤ん坊に渡した。赤ん坊は縫いぐるみを掴むとぶんぶんと振り回す。女性が微笑む。
「エリちゃん。ありがとうって」
「エリちゃんですか。可愛いですね」
「はい。エリカです」
「エリカ…ちゃん。素敵ですね」
どこにだってある名前だ。気にするな。
赤ん坊はジッとキリを見つめていた。その大きな瞳はキラキラとしている。可愛く思う。
「何ヶ月ですか?」
「半年です…ずっと…半年…」
マユミが成程と言う顔をした。その意味を理解したのだ。そうか。この赤ん坊はアンドロイドなのだ。だがキリは知らなかった。山奥で暮らしリペア室が彼女の世界だ。世相に疎い。
「ラン?どうした?」
若い男性がやって来た。ランは困った顔をする。
「エリカがオモチャを投げてこの人に当たったの」
「えっ!それはすみません」
キリは慌てて手を振った。
「いえいえ!大丈夫です!」
当たったのは縫いぐるみだ。そもそも気付かなかったくらいなのだ。
するとエリカはまた縫いぐるみを投げた。またキリに当たった。その様子を全員が見ていた。ランは縫いぐるみを拾って怒った振りをする。
「エリちゃん。ダメでしょ!」
エリカはキャッキャと笑う。ランは困った顔をしてキリを振り返った。
「すみません…悪戯ばかりして…」
「いえいえ…。遊びたいのかな?」
キリは笑ってしゃがみ込むとエリカを覗き込んだ。その瞳が交差した。キリは手を振る。
「じゃあね。バイバイね」
「はい。エリちゃん。バイバイよ」
若夫婦は頭を下げてバギーを押して去っていった。マユミが家族を見つめていた。
「あの赤ちゃん…アンドロイドよ」
キリは驚いて目を見開いた。
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