アンドロイド転生1151
2126年7月31日
シラトリ邸 リビングにて
夕食後のひと時。シオンと養父母はソファに相向かいに座っていた。養父が片方の眉を上げた。
「横浜国大か?」
「うん」
シオンの表情は真剣だった。今日のところは進学の話だけで良い。トウマとの事は全てが落ち着いてきてからにしようと決めていた。まずは外堀を埋めるのが大事だろう。
「東大のほうがいいんじゃないか?」
「横浜国大の方がより経営学に特化しているからいいなって思ったんだ」
「そうか。お前が決めたならそれでいい」
養母は心配そうな顔をする。
「モデル…本当に辞めてもいいの?あなたは…有望だったんでしょ?」
「いいんだ。もう充分楽しんだ」
そう。7年間だ。VOGUE JAPAN で鮮烈のデビューを飾り、更にハイクオリティブランドのアンバサダーも務めた。2年4ヶ月前にフランスに渡り数々のパリコレにも登場した。
彼は凡ゆるブランドから望まれた。シオンの容姿は個性的なのだ。だがそれだけで大成できるほど甘い世界ではない。しかし彼は運にも才能にも恵まれた。努力も惜しまなかった。
海外で暮らし、世界を知る事で教養が深まった。だからショービジネスと病院経営の2足の草鞋をこなすつもりだった。だがモデルは体験のひとつに過ぎなかったと思うのだ。
今は経営者になる方が魅力的だった。シオンは決心していた。自分は容姿を充分に活用した。今度は頭脳を使いたいと。シラトリ家の一員になったのだ。力を尽くしたいのだ。
養父はシオンの決意が嬉しかった。いつかはシラトリ家の舵をシオンに握って貰いたい。モデル業と経営の2足の草鞋でも良いが、出来ればひとつに絞って欲しいと思っていたのだ。
どうやら息子はひとつに決めたようだ。経営学を学びたいと言い出してくれて喜びでいっぱいになっていた。血の繋がりなど関係がない。ただシオンを慈しんでいた。
「父さん。僕もゴルフをやるよ」
「うん。よしよし。いいぞ。文武両道のお前の事だ。直ぐにマスターするな」
だがゴルフはスポーツだけではない。社交であり、仕事であり、人脈を拡げる場なのだ。シオンは頭脳も優秀だが人当たりが良く如才がなかった。それは彼の強みなのだ。
「あと…春まで時間があるからさ…勉強もするけど…父さんの病院で働こうかなって思うんだ」
来春の入学まで約9ヶ月。時間が空くことになる。
毎日ゴルフをするのもつまらない。その期間に自分を高めたい。だから働きたい。しかし病院労働はアンドロイドが担う。医師、技師、看護師、事務員、雑務も全てマシンだ。
シオンの言葉に養父は驚いた。
「働くのか?お前が?なんで?」
「医療の現場を知っておく方が何か役に立つかなって。親戚が病院でお世話になってるし」
養父は一転心配そうな顔をする。
「親戚の経過は順調か?」
「熱が下がって血液マーカーの数値が上がったんだ。本人も気力を取り戻してきたらしい」
シオンの瞳は真剣だった。
「きっと従姉は回復する。僕は信じてる。だから僕は病院の全てを学びたい。掃除でも何でもする。それが一歩だと思うから」
養父は感激していた。シオンには信念がある。立派な男だ。そうさ。俺の息子だからな。廊下では義姉のマイカが聞き耳を立てていた。笑って「グッジョブ。シオン」と囁いた。
※シオンのお披露目のパーティのシーンです。如才なく、社交的に振舞います。
※モデルとして活躍するシーンです。