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アンドロイド転生1150

2126年7月31日 
シオンの部屋にて

シオンの目の前に実の父親の立体画像が浮かんでいる。ヒロシ(サキの父親)と同じ顔だ。一卵性双生児なのだ。だからこそシオンとサキは親戚の中でもより血が近かった。

シオンはサキについて報告した。
「でも…まだ予断を許さない状態だって」
『大丈夫だ。絶対だ』
「うん…そうだね。きっと大丈夫だね」

父親の隣には母親がいた。シオンによく似た美しい顔立ち。目を赤くしている。サキの回復を知った喜びの表れだった。息子の決断が姪の命を救ったのだ。感激していた。

暫くすると母親は囁いた。
『モデルは…』
「辞めたよ。退職手続きも終えたんだ。シラトリ病院の経営者だけになるよ」

両親は力強く頷いた。養子になった時から覚悟はしていた。息子は自分達の手を離れたのだ。一生タウンで暮らし、シラトリ家の一員として責務を果たしていくのだと。

『トウマさんは…なんて言ってるの?』
「応援するってさ」
『そう。それで…あなた達はそのうち…』
「うん。結婚するつもりだ」

シオンは両親に自分のアイディンティティを打ち明けていた。シラトリ家と養子縁組をする少し前である。父親は驚いたものの母親は全て心得ていたようで理解してくれたのだ。

タウンとは違ってホームは同性恋愛・結婚がない。たった60人前後の閉鎖的な集団。その世界しか知らない母親なのに何と柔軟な事かと驚いた。告白して良かったと思った。

「まだまだ先だけど…」
『大丈夫。時間は沢山あるわ』
「で…来年の春に…また大学に行こうと思うんだ。経営学を勉強したいんだ」

両親は満足気に頷いた。彼らは“学びが重要“だと知ったのだ。15歳で勉強を終えるホームとは違ってタウンでは幾つになっても知識を吸収する事を。そのお陰で息子は語学が堪能だ。

「で…それまで暇になっちゃうからさ。病院で働こうかと思って。掃除でもなんでもするよ」
2人は当然の顔をした。ホームでは人も家事、炊事、雑事をするものなのだ。

16歳でシラトリ家で暮らし始めて彼は驚いた。全てアンドロイドに任せる事に。だが反対にシラトリ一家も驚いたのだ。シオンが食後の片付けを始めたり、水漏れの修理をしようとした事に。

『お前は自慢の息子だ。何をやっても何をしても上手くいく。応援しているぞ』
父親は嬉しそうだった。そんな顔を見るのがシオンも嬉しい。

トウマの事を打ち明けた時は腰も抜かさんばかりだった。病気なのか?それとも狐憑きか?と悩んだらしい。だが彼は息子を愛していた。否定するよりも理解しようと決めたのだ。

『お母さんもよ。応援してるからね。あ…たまにはこっちに帰って来て』
「うん。トウマさんを連れて行く」
『それは嬉しいわ。楽しみにねぇ』

「その前にタウンに来てくれよ。2人こそたまには違う空気を吸って欲しい。それに…母ちゃんに似合いそうな服を選びたいんだ」
母親はパッと華やかな顔をした。

『俺には選んでくれないのか?』
「父ちゃんは…もう少し痩せた方がいいなぁ」
3人は笑った。シオンは父の薄い頭髪や肉付きの良い身体にうんざりした事もあった。

子供の頃はいつか自分もそんな状態になるのかと恐れたものだ。だが美の基準とは流動的だ。過去と現在は違う。未来も変わっていくだろう。そして自分だっていつか老いるのだ。



※シオンの初登場シーンです。父親に似たら嫌だと憂いていました。

※シオンがホームとタウンのギャップを感じたシーンです。


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