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アンドロイド転生1152

2126年7月31日〜9月4日
目黒総合病院にて

移植後、高熱が続き危険な状態のサキだったが漸く回復を見せた。一同は喜びに包まれた。だが医師曰く感染症を起こしやすい状態であり免疫力がさらに低下すると告げた。

「一難去ってもまた一難か…」
ヒロシの呟きに一同は暗い気持ちになる。本当にいつまで苦しむのだろうか。ノアが叫んだ。
「先生!ママはいつターイン出来るの?」

医師は真面目な表情だった。
「合併症が軽快し感染症状がなく免疫抑制剤の内服量が安定したら退院となります。まだ熱が下がったばかりですから経過観察。つまり様子見です」

ノアは概ね理解出来ないが最後の“様子見“と言う言葉に納得して唇を尖らした。
「ふーん。早く治してね」
「はい。しっかりとお世話をしますからね」

その後、サキは一進一退を繰り返した。だがやがて二進一退となり、時には三進する事もあった。少しずつ食欲を取り戻し、わずかに肉も付いてきた。何より笑顔が増えたのだ。

・・・

9月5日
クリーン病棟 面会室にて

いつもの如くディスプレイ越しの面会。サキはいつも以上に笑顔でいっぱいだった。
『6歳のお誕生日おめでとう』
ノアは嬉しそうにはにかんだ。

すると面会室の扉が開いて女性アンドロイドが入って来た。心理セラピストのアイだ。サキの担当である。いつものように優しく微笑むとノアの目線に腰を下ろした。

「ノア様。おめでとう御座います。素敵な1年になりますように。はい。これはお母様からプレゼントですよ。開けてみて下さい」
ノアは驚いて目をパチパチと瞬かせた。

サキはネットで商品を注文して病院に送って貰ったのだ。ケイもサキも祖父母も微笑んでいる。ノアは途端に嬉しくなってきた。アイから箱を受け取るとジャンプする。

中身はノアの大好きなキャラクターの変身グッズだった。ケイがハットを娘の頭に乗せて、ケープを羽織らせた。ノアが魔法の杖を振ると周囲が虹色に輝きメロディが奏でられた。

ノアは呪文を叫んだ。
「ママ!元気になった?」
『うんうん。なった。なった』
全員が拍手した。

たとえサキが病に侵されようとも時は平等に流れて行く。人は歳を重ねる。特に幼子の成長は誰もが嬉しいものだ。希望なのだ。そしてノアは彼らの光だ。

「ママ!有難う!」
『ううん…。一緒にお祝い出来なくてごめんね。退院したらおっきな丸いケーキを作ろうね』
「やったあ!」

・・・

サキの個室にて

面会を終えるとサキはベッドに横なり1人で微笑み満足に浸っていた。アイがやって来る。
「ノア様は大変喜んでおりましたね」
「うん。ありがとね」

「お元気になられて本当に良かったです」
「私…怖かった…。6歳の娘が見れないかと思ってたの…。でも上手くいくもんだね。ハハハ」
「サキ様は明るいですから」

「えっ!明るい?そう?え…そうかな?」
「はい。いつも笑っています。それは免疫力をアップしますね。良い事です」
「泣いた事もあるじゃない…」

アイは優しく微笑んだ。
「ええ。泣きましたね。でも折れませんでした。サキ様には物事を全力で受け止める強い精神力があるのです。素晴らしい事です」

サキは照れ笑いをした。だが確かに彼女には不屈の精神があった。だからこそアンドロイドのケイと一生を誓ったうえに遺伝子バンクを利用して彼に似た娘の母になれたのだろう。


※ノアの誕生3日後のエピソードです


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