アンドロイド転生302
2118年1月
カノミドウ邸
(寝室にて シュウの視点)
「じゃあ、祖父ちゃん。寝ててくれな!」
「ま、待て…!」
可能な限りに叫んだがその声は頼りない。トウマはさっさと部屋を出て行った。
ドクターがシュウの点滴にまた薬液を注射した。
「これで解熱もするでしょう。眠くなります。ゆっくりと休んで下さい」
たった今目覚めたのにまた休めとは…!
ドクターは口元を引き締めた。
「ご無理はいけません。心臓の機能低下は否めません。今は養生する時です。悪化しないように出来るだけ穏やかに心安らかに過ごして下さい」
シュウは不満だった。カノミドウ家の一大事なのに、自分は蚊帳の外なのだ。いや、この体力では…もう僕は戦力外だ。何を言っても無駄だろう。それは致し方ない。年齢には勝てない。
だがアオイの事を息子達に知られたのは痛恨だった。96年前、アオイの死を見送るしかなかった。今度こそ何とかして彼女を守りたかった。しかし、今の自分に何が出来るのだろう。
「ドクター、教えてくれ。僕の残り時間はあとどれくらいだ?」
ドクターアンドロイドはシュウを見つめた。
「そうですね。凡そ半年でしょう」
半年…。そうか。それは受け入れよう。もう充分に長生きをした。人生には何の悔いもない。だが心残りはアオイだ。彼女に危険が迫ってはならない。孫の悪行が腹立たしくなってくる。
そもそもタカヤが背徳したせいではないか…!何故自分の孫がアオイを追い詰めるのだ。ここはじっくり考えなければ…。だが考えようとしているのに薬の作用でシュウの瞼が落ちてきた。
眠ってはならない。そう思うのに抗えない。何度も浮上しようとするが目の前が霞んでくる。意識が遠のきやがてシュウは眠りについた。結局、彼には何の力もない。ただの体調不良の老人なのだ。
(書斎にて トウマの視点)
トウマは書斎にやってきた。
「シュウ祖父ちゃんは熱と呼吸苦だって。薬を追加するってさ」
「そうか」
祖父のタクミはタブレットを操作していた。秘書アンドロイドから情報を同期し3年前からの決算書を精査していた。父親のタカヤは収支を操りこっそりとダイヤモンドを購入していたそうだ。
そんなタカヤは渋い顔をして銃を引き取ってもらうようにダークウェブにアクセスしていた。違法物の取引を行うサイトである。
「父さん…やっぱり処分しなきゃダメか?」
タカヤは自慢のコレクションを手放すのが不服らしい。タクミはチラリと息子を見て呆れたように溜息をつく。全く大馬鹿野郎だ。
「何を言ってるんだ。当たり前だろ」
トウマは父親の悪行にガッカリしていた。ダイヤモンドやら銃やら…。なんて事をしてくれたんだ。カノミドウ製薬の代表ともあろう人物が。頼もしく理知的で自慢の父親像が崩れたのだ。
だがガッカリしている場合じゃない。昨夜、家族会議をして会社を守る為に全てを隠蔽することにした。そしてアンドロイドのサヤカについても調べている。どちらも曽祖父は反対をしていた。
けれどシュウ祖父ちゃんは寝ていれば良いのだとトウマは思う。心臓の悪い老人なのだ。ここはタクミ祖父ちゃんと父親が何とかするしかないのだ。馬鹿なオヤジだけどな…と深く溜息をついた。
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