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アンドロイド転生1179

2126年12月31日 深夜
都内某所 神社にて

手を繋ぐリツの手がやや冷たい。
「寒い?大丈夫?」
リツは大丈夫と言いながらも繋ぐ手を自分の服のポケットに入れた。アリスとリツは神社にやって来ていた。

多くの人で賑わっている。子供達が歓声を上げて綿飴やリンゴ飴を持って2人の前を横切った。今日ばかりは真夜中でも親が大目に見る日だ。間もなく新年を迎えるのだ。

アリスは人々を眺めた。頬を赤くして白い息を吐いている。そして誰の顔にも期待感が溢れていた。人はやはり明日を見て生きるのだ。2人もそうだ。たとえサキを失っても。

アリスは歩きながら空を見上げて星を指した。
「きっとあそこの何処かにサキがいるね」
「うん…そうだな」
「ノアちゃん…大丈夫かな…」

リツはノアに思いを馳せた。たった6歳で母親を失ったのだ。その悲しみは計り知れない。運命とは何て残酷なんだろう。あんなに頑張ったのにそれでも死神はサキを連れて行った。

リツも空を見上げるとやがて力強く頷いた。
「大丈夫だと思うしかないな。そして俺達は出来る限りサポートするんだ」
「そうだね…」

リツは頷くと周囲を見渡した。
「沢山いるな。カップルが多いな。人間同士もいるし…人間とアンドロイドもいる。幸せそうだ」
「うん。色んな…愛のカタチがあるね」

リツはアリスに顔を向けた。苦笑いしている。
「俺さ。人間の女と付き合った事がある。アリスと出会う前に。けど…気持ちがすれ違うって言うか…きっと価値観が合わなかったんだろうな」

突然何を言い出すのかとアリスは驚く。
「でさ。アリスと初めて会った時に…まず思った。笑顔がいいなってさ。それに会話は弾むし…なんか違和感がないんだ。心が満たされるってやつだ」

リツは当時を思い出すかのように笑った。
「で…それからアリスの事ばっか考えるようになってさ。気付いたんだよ。あ〜。俺ってそうなんだって。対象は人間じゃないんだなぁってさ」

アリスも気付いたのだ。自我が芽生えた事で“人を愛する“自分に。そしてそれがリツだったのだ。同じように彼の事ばかり考えるようになった。一緒に居られる事に幸せを噛み締めた。

しかしある時から2人の差を強く感じるようになった。キリがエリカを罰した時。ソウタがゲンに復讐した時。そしてリツが子供を拒否した時だ。まるで両者の間に大きな川が流れているようだ。

アリスはつくづく思う。リツと共に歩む時間に限りがあるのだと言う事を。彼は人間。私は機械。人工物の存在だ。成長もなく老いもしない。永遠に変わる事のない身の上が悲しい。

リツは真面目な顔になった。
「俺達の間に子供は出来ない。命は生まれない」
その言葉にアリスの胸が締め付けられるようだ。
「分かってるよ。そんなこと…」

「それでいいって思った。だって俺達に信頼関係があるんだし」
アリスはまた思う。確かに信頼してる。でも…。時は流れる。あなたは…変わっていく…。

リツは寂しそうな瞳で空を見上げた。
「だけど…俺はサキの事で思ったんだよ。いつか俺も死ぬ。親父も母さんもだ。そしたらアリス1人ぼっちになる。それは凄く寂しいだろうなって」

アリスは俯いた。リツの手の温もりを感じながら、いつか彼を失う恐怖が胸に凍りつくような寒さをもたらす。この寂しさは、サキを失った事で知った命の儚さに対する絶望だった。


※2人の恋がスタートした時の頃です


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