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アンドロイド転生1189

2127年3月31日
つばさ幼稚園 本宅 サクヤの部屋にて

『無精子症です』
サクヤの目の前には医師アンドロイドのホログラムが浮かんでいる。サクヤは動じない。18歳の若者に「無精子症」の重大性がピンとこないようだ。

サクヤは3日前に遺伝子検査を受けたのだ。すると病院から要連絡を求められてアクセスしたところ、たった今、医師から宣言されたのだ。

医師は真剣な表情だ。
『この事で健康上の問題を引き起こす事はありません。ですがサクヤ様の場合、精子の割合が0%。つまり一生涯お子様には恵まれません』

サクヤはじっくりと考えた。幼稚園経営者の息子として園児とはずっと親しくしてきた。子供は好きだ。元気をもらえる。皆んな可愛い。だがサクヤは違うことを考え出した。

「じゃあ…あのさ?つまりさ?彼女と…アレをしても…妊娠しないってことだよね?」
『その通りです』
「オッケー。分かった」

サクヤは問題がないと判断した。彼はまだ若く、子供よりも優先したいことは山程あるのだ。自分が親になれないという事実は取るに足りないことなのだ。

・・・

数日後 
都内某所 カフェにて

サクヤとリンはスマートリングを立ち上げて小さなホログラムを互いに覗き込んでいた。内容は遺伝子検査の結果表だ。2人の遺伝子が近い血縁ではない事を証明していた。

リンはホッとしながら数値を眺めた。
「兄妹じゃなくて良かった。じゃあ…えっと…子供に欠陥が現れる可能性は…」
「あ。それなら大丈夫だ」

「ん?そうなの?」
「俺って無精子症なんだって。ゼロパーなんだって。だから子供は出来ないんだ。医者にも聞いたし…ホラ。ゼロってここに書いてある」

「えっ。子供が出来ないの?」
リンは目を見開いて直ぐに声を顰める。
「じゃあ…あの時…避妊しなくてもいいの…?」
「そっ!」

リンは驚いたもののやがて笑った。
「それは…いいね!安心だね!」
現代は若くして親になる者は多いが、サクヤと同様に彼女の世界にもまだ子供は存在しないのだ。

サクヤは下心を見せるような顔をした。堪えていても若さ故に興味が強い。
「…またうちに来いよ。親がいない時に」
リンは分かったと言って微笑んだ。

・・・

数日後 サクヤの部屋にて

サクヤとリンはベッドに座ってキスをしていた。2人は何度も唇を重ね合わせ、見つめ合い、微笑み合った。互いの吐息が漏れて気持ちが高まっていく。

「リン…いいかな…」
「うん…」
承諾を得てサクヤは俄然張り切り出した。この時を待っていたのだ。

2人はベッドに潜り込んだ。リンの頬はピンクに染まり、期待と恥ずかしさが現れていた。これから初めての経験をしようとしている。大人になろうとしている。

サクヤの胸は期待と緊張でドキドキとしていた。体の奥からじんわりと熱が広がっていく。その熱は求める場所へと自然と向かわせる。静かな2人の時間が始まった。

・・・

事を終えて2人は穏やかな笑みを交わし合った。サクヤはこれまで感じたことのない幸福感に満たされていた。リンへの愛おしさが胸に溢れ、ずっと大切にしたいと心から思った。

一方、リンは少し痛みを感じていた。こんなにも痛みを伴うものだとは思っていなかったけれど、どこか清々しい気持ちもあった。大人になった。サクヤと本当の恋人同士になれたのだ。

2人はそっと顔を寄せ合った。
「これからも一緒にいような」
「うん。絶対」
優しい光が2人を包み込んだ。

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