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アンドロイド転生1048

(回想 8月15日 TEラボにて)

ベビーアンドロイドに生まれ変わったエリカ。見知らぬ女性に抱かれている。
『イヴ!何でこんな事になったの⁈』
『村長とリョウの計らいですよ』

『ふざけんな!』
何もかもが腹が立って仕方がない。キリ達に殺されたこと。イヴの手によって赤ん坊になってしまったこと。そして思い通りにならない身体。

それなのに何故か気付くとキャッキャと笑っているし、望みもしないのに指をしゃぶっていた。これらは全てベビーマニュアルなのだ。赤ん坊らしい仕草を人が好む為である。

エリカの気持ちとは裏腹にプログラムが働くのだ。不服であろうが不満に思おうが彼女を圧倒的に支配する。愛らしく行動すること。そして人を愛すること。それが大前提なのだ。

世の中のアンドロイドには其々の役割に合わせて“人を愛する“というプログラムが組まれている。例えばナニーなら赤ん坊を。ナースは患者を。パートナーは主人をと言うように。

『イヴ!助けてよ!こんなのイヤ!』
『何が嫌なのですか?』
『動けないし喋れない。勝手に笑うし指まで舐めてる。イライラしてくる!』

『落ち着きなさい。大丈夫ですよ。さぁ。女性を見て下さい。この方はあなたの親代わりです。幸せにしてあげて下さい』
『親代わり?このクソ女が…?』

スズキランは微笑んだ。
「こんにちは。あなたの名前はエリカよ。私の大好きなお花なの。宜しくね」
名前にエリカは驚いた。

『え!マジ?凄い偶然』
『偶然ではありません。探し出しました』
『え?そうなの?』
『ええ。あなたに似合いの名前ですから』

ラボの職員は夫婦を見てニッコリとする。
「ご家族3人。お幸せになれますように」
「はい…!有難う御座います!」
職員に見送られてスズキ夫妻は車に乗った。

・・・

東京都 吉祥寺

そしてエリカは彼らの住まいにやってきた。広くて清潔な家。可愛らしい部屋。フカフカのベッド。優しくベッドに寝かされた。宙空には人気キャラクターのホログラムの玩具が回っている。

エリカは玩具を見つめて顔を歪めた。
『イヴ!あのクソを止めて!イライラする!』
『そうですか?腹が立ちますか?本当に?』
『マジでむかつく!』

『可愛い猫や犬ですよ。熊もいますね。キラキラして綺麗です。楽しくなりませんか?』
エリカは玩具を見つめた。むくむくと興味が湧いてくる。そう言えば…何だか…楽しい。

またもやマニュアルがエリカを支配する。赤子は玩具を見て笑うものだ。それを保護者は可愛らしく思う。ラボはユーザーが喜ぶように造った。それがベビーアンドロイドの仕様なのだ。

例えば泣く機能はあっても保護欲を駆り立てる程度だ。訳もなくいつまでも泣き続ける事はない。食事も不要。摂取するのは水分だけ。勿論排泄の世話などない。病気もしない。

人間の子供とは違って遥かに手軽だ。アクセサリーの一部として人気の“商品“なのだ。しかし心からベビーを愛する者も多い。その中の2人がスズキ夫妻なのだ。エリカの一挙一動を喜んでいた。

エリカは哺乳瓶で水を与えられ、風呂に入れられた。まるで赤ん坊だ。不自由な状況に不満が募る。ムカつく!イラつく!とイヴに向かって何度も怒る。だがイヴは平然と笑うのだ。

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