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アンドロイド転生1184

2127年3月5日 午後
都内某所 受胎センター 

リツとアリスは様々な事を乗り越えてきた。アリスのIDの復活、遺伝子バンクへの申込み、国からの許可、ドナーの選定、受精卵の完成、人工子宮への着床。そしていよいよ受胎日が来た。

2人は施設を訪れた。担当者に迎えられ、まずはアリスだけブースへと案内された。そこにはリツの受精卵を人工子宮に着床させたオリジナルアンドロイドが横たわっていた。

アリスとオリジナルの目が合った。互いに微笑み合う。担当者は自信ありげに胸を張った。
「10日前に細胞分裂が始まったことが確認され、経過は順調です」

「それは良かったです」
「では頭部を切り離します」
「はい。でも…その前に…」
「何でしょう?」

アリスはブースの側に腰を下ろした。そしてオリジナルの手を取ったのだ。
「あなたの身体をお借りします」
「はい」

アリスとオリジナルの首が外され、アリスの頭部がオリジナルの身体に装着された。アリスの身体は保管庫へと運ばれていった。子供が生まれるまでそこで保管されるのだ。

アリスは9ヶ月間ブースに拘束されることとなった。ブースの上部にはホログラムが浮かび上がり、胎児の状態が逐一報告される。どの数値も問題なく担当者は全て順調であることを告げた。

間もなくリツがブースにやってきた。横たわるアリスを見て、顔が引き締まった。
「どうだ?大丈夫か?」
念のため聞いてみる。

アリスは感極まったようだ。
「リツ…。リツ…。私…嬉しい」
「うん。俺も嬉しいよ。9ヶ月間…頑張ってくれな。出来る限り見舞いに来るから」

「お店が忙しいんだから…無理しないでね」
「いや。大丈夫。明日からソラが臨時バイトに来るって言ってくれたから時間は作れるよ」
「えっ!そうなの!」

アリスは嬉しくなった。素直で明るい青年のソラが大好きなのだ。
「ソラ君が来てくれるんだ…!良かったなぁ!」
「赤ん坊が楽しみだって言ってるぞ」

ソラとはヤクザのスオウトシキの息子だ。間もなく20歳になる大学2年生でリツとは友人で兄弟のような間柄だった。ソラが10歳の時からの付き合いになる。

スオウとリツには因縁があったが時を経て和解し今では家族ぐるみの付き合いをしている。
「嬉しいなぁ… 。あ。ピンチヒッター頑張ってねって言って。宜しくねって」

リツは微笑んだ。親になる選択をして良かったと心から思った。7年前、アリスが子供を産みたいと言い出した時は受け入れられなかった。他人との子供など欲しくなかったのだ。

だが人は死ぬ。従姉のサキとの別れで、それを痛感した。自分もいつかアリスを残して逝ってしまう。彼女を一人にしてしまう。だからリツは決心したのだ。子供を残そうと。

「…リツ?リツ?どうしたの?」
アリスの声にハッとなる。
「あ、ごめん。うん。なんだ?」
「赤ちゃんの名前を考えてね。私も考えるから」

リツは大きく頷いた。
「そうだな!男と女のどっちも考えるよ」
「私…それを考えているだけで楽しい。ここにずっと寝ているだけでも価値がある」

2人は暫く会話を楽しみ、やがて時間になるとリツはアリスにキスをして立ち上がった。
「じゃあ…行くな。ママ」
「バイバイ。パパ」


※リツ一家とソラ一家の交流のシーンです


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