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アンドロイド転生1178
2126年12月27日
斎場にて
サキの葬儀でケイとノアはずっと弔問客や親戚達に感謝の言葉と別れの挨拶を繰り返していた。全てを終えて漸く2人はマンションに戻って来た。部屋の前で今日最後の挨拶をする。
「有難う御座いました」
ケイは丁寧に頭を下げた。目の前には隣人のツグミ一家だ。ツグミは腰を落とすとノアを優しく抱き締めた。互いに言葉はないが気持ちは同じだ。
両家は別れると其々の扉を開いた。ケイはやっと3人で家に戻って来たと思う。ケイはサキを抱いていた。白い供養箱を。家に入りリビングに行くと用意していた祭壇にそっと置いた。
サキのホログラムが微笑んでいる。
「お帰り。サキ」
ノアがケイの隣に座った。
「おかえり。ママ」
手を合わせるとケイが娘を見下ろした。
「疲れただろう。ずっと…よく眠れてないし…お腹はどうだ?斎場ではあまり食べてなかっただろ。何か食べるか?」
「いらない」
「じゃあ…お風呂に入るか」
ノアは無言で首を横に振った。どうやらそんなエネルギーも残っていないらしい。
「そうか。じゃあ…もう寝ようか。服を脱ごう。パジャマに着替えよう」
「うん…パパ…一緒に…ねよ」
「うん。そうしような」
服を替えるとケイとノアはベッドで見つめ合う。ノアは深々と溜息をつく。ケイは娘が哀れになった。どんなに心身が疲弊しているかと思うのだ。疲れがない自分の身体を恨みたくなる。
「パパ…ママはお星様だよね…?」
「うん。僕らを遠くから見守ってるんだ」
「ずっと…?」
「ずっとだよ。ノアが大人になってもずっとだ」
ケイはノアの頭を撫でて額にキスをした。2人は横たわった。幼子は父親の懐に潜り込む。間もなくノアの小さな寝息が聞こえた。
「ゆっくりお休み…」
・・・
翌日
ケイはサキのホームページに彼女の訃報を載せた。すぐに多くの哀悼のコメントが寄せられた。サキの作品は一生の宝物だと言ってくれた客にケイは感動する。サキは生き続けるのだ。
ノアの姿が見えない事に気が付いた。だが予想はつく。きっとサキの仕事部屋だ。覗いてみると案の定、透明の椅子の背もたれから小さな背中が見えた。ケイは後ろから覗き込んだ。
ノアはシーグラスを両方の指で摘んで光を当てている。ピンクとブルーだ。
「綺麗だな」
ノアはその声に驚いて振り向く。
「パパ…。ビックリした…」
「何しているんだ?」
「ママが…ピンクはあかるい人…ブルーはしずかな人って言ったの。ノアは…何色かな…」
ケイは言葉に詰まった。今のノアに“明るい“などとは言えない。しかしブルーは寂しい感じがする。どう言えば良いのだろうと思う。せっかくのナニーマニュアルでもお手上げだ。
「ママね…お客さんがよろこぶから…うれしいって。ノアも…大人になったら…笑顔のシゴトしてね…って。でも分かんない」
あの時は理解出来たような気がしたのだ。
ケイはノアの椅子を自分に向けると娘の両肩に手を置いた。真面目な顔になる。
「ノアはまだ6歳だ。大人になるまではずっと先だ。これから勉強して友達を作って遊ぶんだ」
「うん…」
「ノアの色はいつかパパが見つけてあげる。それまで待っててくれ」
ノアは嬉しそうに微笑んだ。
※サキとノア。シーグラスのシーンです。