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アンドロイド転生1167
2126年12月15日 夕方
目黒総合病院 診察室にて
昨日までは何ら問題がなかったのに、サキの顔も身体も瞳(白目)の色も黄色く染まった。黄疸である。病院に訪れて検査を行ったところ劇症型肝炎だと診断された。
サキは呆れた顔をする。
「白血病は寛解したのに…何で今度は肝臓なんですか?移植をしたせいですか?」
不安になり疑ってしまう。
「違います。血液疾患を伴うステロイドなどを含む化学療法を施行して寛解後の薬物減量時に重症な肝障害が発現することがあるのです」
「そ…そんな」
「肝臓はふたつありますが、サキ様の場合両方共に広汎な壊死が認められます。通常、治療には血漿交換や肝臓移植がありますがサキ様の今の体力では全ての治療に耐えられません」
ケイが口を挟んだ。
「移植が出来ないんですか?本当に?」
「はい。命をより早く削る事になります」
「より早くって…どう言う意味ですか」
医師はサキをジッと見つめた。
「残念ながらお役に立てる事はありません。つきましては余命についてお伝えしたい事があります。サキ様。宜しいでしょうか」
「余命⁈え?余命⁈」
「はい」
「それは…死ぬのが…近いって…ことでは…」
「その通りです」
サキは冷水を浴びせられたような衝撃を受けた。驚きのあまりにたった今ショック死しそうだ。暫く茫然となった。すると突然身体がガタガタと震え出し、呼吸が荒くなってきた。
なんて事だ。辛い治療に耐えてやっと元気になれて家に帰って来たのに。たったの1ヶ月半でこんな事になるとは。ついこの間、いつか孫や曾孫を見ると喜んだのに夢で終わるのか。
医師は労わるような眼差しになった。
「休憩室でお休みになりますか。お話しはまた後でも結構です」
ケイもそうしようと言い出した。
サキは目を瞑り胸を押さえて深呼吸を繰り返した。自分に言い聞かせるように何度も頷く。暫くすると顔を上げた。瞳に決意が漲っていた。
「いえ…自分の事だもの。今…知りたい」
「では告知させて頂きます。残された時間は1週間から8週間です。ご覚悟なさって下さい」
サキは息を吸い込んで吐く事を忘れた。暫く…本当に暫く声が出なかった。
診察室が静寂に包まれた。夕陽が窓から差し込んでいる。サキの頬をオレンジ色に染めた。
「…そうですか…そうなんですね…。私の…時間は…あまりないって事ですね」
「お力になれなくて申し訳ありません」
「い…いえ…先生のせいではないです」
「まずはクリーン病棟に入院して頂きます。出来るだけの処置を行います」
サキはフッと笑う。
「何の処置をするんだか…」
「少しでも延命が出来るようにです。それが叶わなくなった時に緩和病棟に移ります」
「緩和病棟ね。知ってる」
「はい。そこでは積極的な治療は行いません。そして最大限に痛みを和らげる処置を行います。ゆっくり穏やかに過ごすのです」
またサキは力なく笑う。
「そうなのね…私はそこで死を待つって事なのね。まるで…天国の階段みたいね」
「そうとも言います」
・・・
図書室にて
セラピストのアイと過ごしていたノアの元に父親がやって来た。ノアは不思議そうな顔をする。
「ママは?」
「入院する事になったんだ」
2人は自宅に戻りケイは入院支度を始めた。ノアの表情に怒りが現れた。
「なんで?なんでまたニューインなの?」
ケイが抱き締めるとノアは泣き出した。