アンドロイド転生1144
2126年7月8日 午後2時
平家カフェ(定休日)
幼稚園からアリスと共に帰って来たノアはリツの元へ駆けて行く。遊ぼうと誘うがリツは株式のホログラムから目が離せない。ノアも一緒にソファに座るとチャートを眺め始めた。
「リカク(利益確定)するの?」
リツは頷く。若干5歳のノアは普段は全く幼稚園児そのものだが数字が得意で父親のケイが行っている株式取引に興味を示す子供だった。
赤ん坊の頃から付き合いのあるリツはノアのそんな一面を知っている。平家の子孫は優秀なのだ。賢くて愛らしい容姿。彼にとって姪のような存在で可愛くて堪らない。
「売った?20パー益だね!」
「はいはい。お姫様。欲しい物があればどうぞ。アリスと3人でモールに行こう」
「やったぁ!」
ノアはマユミ(リツの母親)の元へ走って行く。
「おばちゃん!行ってくるね!」
ウキウキと支度をして家を出た。2人と手を繋いでジャンプする。高く持ち上げられると大喜びだ。
見送りながらマユミは想像する。もしいつか…リツの心が軟化しアリスが子供を産んだら…あんな光景が見られるのかしらと思う。孫を夢見る事があるけれど、それは本人達の問題だ。
※アリスはアンドロイドですが科学の進歩により人工子宮で出産が可能な時代です
・・・
ショッピングモールにて
ゲームコーナーでノアは大喜びだ。リツも童心に戻って共に遊んだ。テラスにやって来るとノアはかき氷をモリモリと食べた。リツもアリスも安堵する。昨晩は父親を求めて泣いたのだ。
「ねぇ!アッちゃんはお水だけなんだよね。パパもそうなんだよ。お腹すかないんだよね?」
「うん。そうなの。電気があればオッケーなの」
「面白〜い」
5歳のノアも人間とアンドロイドの違いを何となく理解している。世の中にはヒューマノイド型のマシンがおり人間そっくりだ。だが食事はしない。父親のケイもそうだ。
ノアは隣の席にいるアンドロイドと赤ん坊を眺めた。ナニーと言うのは知っている。
「あのね。ノアはパパとママだけなんだよ。フツーはナニーがいるんだよ」
ノアは他人の家庭と自分達が違う事も理解している。だが満足だ。愛されていると言う自信があるのだ。すると赤ん坊が泣き出した。ナニーが優しくあやすのをじっと見つめた。
「ねぇ!アッちゃんは赤ちゃん欲しい?」
「う…うん。そうねぇ…」
「赤ちゃんが出来たらノアがメンドー見るよ!」
アリスは微笑んだ。ノアを可愛く思う。
サキはアンドロイドのケイと一生を貫く覚悟でノアを産んだ。科学の力だ。だがケイに似た遺伝子を利用した事で2人はよく似ていた。黒い巻き毛や、大きな瞳。びっしりとした長い睫毛。色白の肌。
そして理数系。ノアは数字が得意なのだ。普段からケイの株式投資のチャートを一緒に眺めて喜んでいる。そんな親子関係が羨ましくて堪らない。アンドロイドだって父親になれるのだ。
私も母親になりたい。私に似ている人の卵子を使えば…親子に見えるかもしれない。6年前にリツに提案したが即座に否定されてしまった。だがリツはもう37歳。子供が欲しくないのだろうか。
「ねぇ!リツ兄ちゃんは?赤ちゃん!欲しい?」
リツは答えずノアを肩車した。キャーと叫んでノアは大喜びだ。彼は子供をあやすのが上手い。きっと良い父親になるだろう。だから…お願い。
※アリスとリツが子供の件で揉めたエピソードの抜粋です