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アンドロイド転生1102

現在 2126年3月10日 夜
都内某所 レストラン

モネは目の前の恋人を見つめた。愛する人と誕生日を迎えられる事がこんなにも嬉しいもなのかと実感していた。24歳になったモネ。26歳のユリウス。2人が出会ったのは6年前だ。

留学生の彼は王子という格上の存在。だが愛嬌があり温厚な人柄で誰からも好かれた。彼自身も大学の全員を好きになった。しかし愛したのは1人だけ。タカミザワモネだった。

彼はどんな時でもモネの理解者でありガーディアンだ。その想いにほだされた訳ではない。モネも気付いたのだ。彼の笑顔を見たい。幸せにしたい。私も守護者になりたいと。

交際して3ヶ月。2人はキスもなく清純だった。互いを思い遣り、慈しみ、丁寧に愛を育んでいた。遠い地で生まれ育ち、国も人種も立場も違う。だがそうなる運命だったのかもしれない。

2人の交際をデンマーク王国もモネの所属事務所も母親のサクラコも認めている。世界中のメディアも祝って報道し、人々も温かく見守っていた。

そんな2人は多忙な日々を送っていた。ユリウスは東京大学の大学院に通い勉学に励んでいる。夢は言語学者なのだ。更に親善大使として日本とデンマークを結ぶ架け橋をしている。

モネは2年前に大学を卒業して本格的に女優となって活躍していた。美貌と健康と才能に恵まれた。それだけではない。どんな努力も惜しまない。様々なオファーがあり人気は鰻登りだ。

恋人達はシャンパンで乾杯し最高級の料理を堪能した。食事を終えて夜桜見物に出掛けた。今年は早咲きで既に見頃である。公園は七色にライトアップされており、目を見張る程の美しさだ。

モネが見渡した。
「幻想的ねぇ…」
「う〜ん…凄い。桜って…日本にとって特別だよね」
「そう。始まりを表してるのよね」

ユリウスはハッとした顔をする。
「モネの母上はサクラコさんだ。桜の子?」
「そうそう!」
「素敵な名前だねぇ…」

モネは笑った。
「桜の季節に産まれた訳じゃないの。でも…新生児なのに珍しく色白でホッペがピンクだったからなんだって。あ!ユーリの名前の意味は?」

「僕は7月に産まれた。英語で “July” だね。古代ローマでは7月は“Julius” 。それを語源とする言葉が元になっててローマ帝国の礎を築いた将軍ユリウス・カエサルに由来してるんだってさ」

モネは繁々とユリウスを見つめた。初めて会った頃はまだ少年の雰囲気で物語の王子様だった。でも今は肩幅も広く胸も厚く、なんだか本当に将軍のようだ。カッコ良くて素敵だと思う。

「私の名前は画家のクロード・モネからなんだって。ママが画家だからね。アバウトなの」
モネは苦笑した。するとユリウスは真面目な顔になった。指を顎に置いて思案する。

「モネは萌え出ずる音って書くんだよね。“萌“は…日の光を浴びて草木が芽生えるという意味から春のイメージなんだ。春の足音が聞こえたから母上は萌音って名付けたんだよ。きっと」

モネは呆気に取られた。ユリウスは微笑む。
「今日、産まれたモネに相応しい名前だ」
「あ…有難う…ユーリ…ホントに有難う」
モネは感謝しつつ感心していた。

言語学者を目指しているユリウスはなんて日本語に造詣が深いのかと。しかも人の心を汲み取れる気遣いが出来るのだ。たとえサクラコにそんな想いがなかったとしてもモネは嬉しかった。

2人は時間を確認する。
「明日も早いね」
「うん。しかも多忙だ」
間もなく別れた。笑顔で。慈しむ心で。

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