アンドロイド転生1080
2120年10月12日 深夜
富士山8合目 ロッジの庭先にて
タケルの目前にはリョウの立体画像が浮いている。話すのは2年7ヶ月振りだ。ずっとホームの関係者とはイヴ以外は通信を絶っていた。自分は村を出たのだ。もう関係ないと思ったからだ。
だがイヴから提案されたのだ。どうやらリョウから大事な話があるらしい。一度だけでも応じてみてはどうかと。ならばとアクセスしてみた。
「話があるって?」
リョウは真面目な顔をして頷いた。顔が引き締まっているし以前とは違って全体的にこざっぱりとしている。そうかと思う。髪がまとまっているし無精髭もない。服も…ヨレヨレではない。
タケルは思わず笑ってしまった。
「どうしたんだ?別人みたいだぞ?」
『うん。色んなことがあって…少しは変わったんだ。今日は応じてくれて有難う』
「いや…大事な話があるからって…」
『うん。そうなんだ。先に言う。俺は今イギリスで暮らしている。現地の人と結婚したんだ』
「え⁈結婚⁈」
『うん。で…なんでイギリスにいるかと言うと…俺は…ハスミエマさんに会いに行ったんだ』
タケルは目を見開いた。
「え?なんだって?」
『タケルとエマさんは恋人同士だった…』
タケルが頷くとリョウも真剣な顔をする。
『エマさんはショックな事が重なったよな』
「あ…ああ…」
そう。エマがセフレを募集したとかで男性達が家に押しかけたり、エマの乱行パーティでの動画がSNSに流されたりしたのだ。管理者が削除しても何度もアップされてイタチごっこだった。
タケルはリョウにはエマの存在を打ち明けた。そしてエマを貶めた悪意ある第3者を暴いて欲しいと頼んだ。しかしリョウのスキルを持ってしても犯人を探し出す事は不可能だった。
エマへの攻撃は続き、最終的には友人の罪を暴露したとして本人からも世間からも責められた。彼女は心を痛めて自殺未遂を図ったのだ。タケルにとっても苦しい出来事だった。
そしてイギリスに駐在をしていた両親の勧めでエマは渡英する事になり、タケルも共にすると約束した。だが搭乗の寸前でエマの元から去った。彼は日本から出られなかったからだ。
タケルはラボから存在が抹消されている。つまり所有者がいないのだ。その状態ではアンドロイドは出国が出来ない。だから諦めた。身の切れる思いでエマを見送ったのだ。
あれから2年7ヶ月。時が流れ先日はイヴからエマが立ち直ってきたと聞いて安堵したがやはり思い出すだけで辛かった。まだ心にしこりとなって残っている。別れても忘れられない人なのだ。
タケルはエマとの出会いを思い出す。美容師時代の頃だった。彼女は16歳でまだ子供だった。それから13年後。偶然にも再会した。すっかり成熟しており美しさに磨きがかかっていた。
瞬く間に恋に落ちた。彼女の天真爛漫な性格に惚れたのだ。転生したタケルはずっと孤独だった。その空いた穴にエマは埋まった。だがその期間は短かった。たった11日間の恋だった。
リョウは唇を噛み締めた。
『エマさんとは…本当に辛い事ばかりだったな』
タケルは頷いた後すぐにハッとなる。もしかしてリョウは漸く犯人を探し出したのか?
「とうとう見つけたのか?悪意の野郎を?だからエマに会いに…言いに行ったのか?」
リョウは首を横に振った。
『違う。俺が…その悪意のクソ野郎だ』
※タケルと少女の頃のエマの告白シーンです
※タケルがエマと恋に落ちたシーンです