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アンドロイド転生1191
2127年4月8日
港区 シラトリ邸(シオンの家)リビングにて
「行って来ます」
シオンは居間にいる養母に声をかけた。シオンが玄関へ向かうと彼女は慌てて追いかけてきた。
「大丈夫?眠くない?」
養母は心配そうな顔をする。
「昨夜は遅くまで頑張ってたでしょう?」
「全然平気」
彼は義理の父親が経営する病院で事務作業をしたのだ。
だが業務は殆どがアンドロイドによって行われる。しかしホームページのデザインなど、人間ならではの感性を必要とする部分をシオンは担当した。仕事は楽しく、夢中になった。
彼は昨年の夏から昨日まで病院で働くと決めて実行したのだ。最初はアンドロイドと共に病棟の掃除をした。両親は止めたが何でもかんでもマシンに任せる風潮に疑問に感じたからだ。
彼は子供の頃から家事をする事が身近であり、建物の修繕や水回りの修理なども得意だ。シオンは8ヶ月間、病院の事務や雑務を一つずつこなし、全てを吸収していった。
病院は病気を治す場所だ。様々な患者がおり、其々抱えてる問題も違う。痛みも苦しみも違うだろう。心のケアが重要なのだ。まずは「知ること」そして「寄り添うこと」。
だが経営戦略をもつ企業でもあり、綺麗事だけでは済まされないこともある。だからこそ医療と経営の両立を見据えて盛り立てていきたい。いずれは自分が代表者になるのだから。
シラトリ家には他に相続人の29歳の義姉のマイカがいるが彼女はいずれアメリカへ行く。昨年婚約し秋には結婚式を挙げ、夫と共に渡米するのだ。シラトリ家の行く末をシオンに託して。
「じゃあ、行ってきます」
養母に見送られて玄関のドアを開けると街路樹の桜がハラハラと舞っていた。始まりの季節だ。彼はこれから横浜に向かう。
横浜国立大学の入学式だ。25歳のシオンは今日から2度目の大学生活を始める。優秀な彼は東京大学も進学の視野にあったが、最終的により経営学に特化している横浜国大を選んだ。
大学に着くと入学式を済ませた。シオンの美しい姿は注目の的だった。学生たちは目を輝かせて彼に話しかけてきた。シオンがパリコレで活躍していたことを知っている者も多かった。
同級生は誰もが年下だが、そんな事は気にならなかった。彼には野望があるのだ。経営学をマスターしシラトリの名に恥じない代表者になること。シオンには並々ならぬ信念があった。
血の繋がらない自分を我が子のように慈しんでくれたシラトリ夫婦に心から報いたい。そのために、平家の子孫として受け継いだ優れた知能を生かして4年間学ぶのだ。
キャンパスでは様々なサークルが新入生を勧誘していた。その中でゴルフ部が目に留まった。始めて間もないが筋が良いシオンはすぐにコースを回れるようになった。養父は大喜びだ。
ゴルフはただのスポーツではない。大人の社会性を身につける場でもある。人々との交流を通して人間関係を構築し、それは仕事にも繋がっていく。ビジネスの一環なのだ。
それを踏まえてシオンも参加しているのだが、相手は遥かに年上の大人たちだ。若い世代とも交流したい。サークルの先輩たちはシオンが興味を持っていると判断し、声をかけてきた。
「どうぞ!体験だけでもいかがですか?もしかして、もうコースを回られたりしてますか?」
シオンが頷くと、先輩たちは是非にと彼を誘った。シオンは快く入部することを決めた。