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アンドロイド転生1199

2127年8月
都内某所のホテルにて

授賞式会場の壇上には、スガ監督、ダブル主演のタカミザワモネ、そしてヘレン役を演じた少女が立っていた。2人は主演女優賞を獲得し、スガは監督賞を受賞した。

モネの顔は光り輝いていた。女優になって7年。今回の舞台でより一層学んだのは、人の可能性を信じることだ。サリバンとヘレン。過去の偉人に感謝の気持ちでいっぱいだった。

司会者は満面の笑みだ。
「タカミザワさん、一言お願いします!」
「…何もかもスガ監督のお陰です。演じることの本質を教えてくださいました。心より感謝申し上げます」

会場から大きな拍手が沸き起こる。スガは照れ臭そうにお辞儀をした。彼も一言を求められた。
「私は表現者です。ですが、1人では何も出来ません。仲間がいてこそです。本当に有難う御座いました」

そうだ。人は支え合ってこそなのだと誰もが思った。ヘレン役の少女も一言を求められ、緊張で頬を染めながらも立派にスピーチを述べた。会場は惜しみない拍手に包まれた。

モネは少女を見つめた。たった7歳で辛い稽古に耐えた。素晴らしい役者だ。私はサリバンになれた。それは…あなたがいたからよ。感極まって思わず彼女を抱き締めた。

「ヘレン、有難う。あなたは言葉の壁を越えて心を通わせることを教えてくれた。心から感謝しています。あなたの成長をずっと見守るわね」

少女をヘレンと呼んだモネ。それはまるで、サリバン先生がヘレンに寄り添う姿を彷彿とさせた。観客席では共演した役者達が涙を滲ませていた。皆で作り上げた舞台なのだ。

・・・

祝賀会

スガ監督が仲間に向かってグラスを掲げた。
「皆さん、お疲れ様でした。日本人のヘレン・ケラーが認められました。海外のニュースプレスでも概ね高評価の記事を掲載しています」

一同は感激と喜び、そして感謝の気持ちを胸に席に着いた。テーブルにはサリバンとヘレンの立体画像、そして2つのシャンパンが用意されていた。楽しいひとときの始まりだ。

スガ監督は終始穏やかな笑みを浮かべている。誰かが彼に向かって言い出した。
「監督のご家族は、奥様と娘さんですか?」
「えっ?なぜですか?」

「なんとなく…物腰が柔らかいから」
周りからも同意の声が上がった。
「いや…私は妻と2人暮らしで…子供はいません」

誰もが成程と思う。私的な事に立ち入ってしまったとは思わない。現代は何でもオープンなのだ。モネはスガをじっと見つめた。自分も彼には娘がいると思っていた。

柔らかなオーラを纏っている彼の隣には妻、そして笑顔いっぱいの娘。それが似合っているなと。スガがモネの視線に気がついた。「ん?」と顔をする。モネは微笑んだ。

「またいつか、ご一緒にお仕事がしたいです」
「それは光栄だなぁ。嬉しいです。次はどんな役を演じたいですか?」
「考えておきます」

その後、宴はますます盛り上がり、笑い声が絶え間なく響いた。やがてヘレンは立ち上がりナニーと共に帰って行った。大人達は2次会に繰り出し、最後は何度も手を振り合って別れた。

・・・

タカミザワモネの住まい

「ただいまぁ!」
モネが帰宅すると、アオイがいそいそと出迎えた。モネはアオイをじっと見つめる。
「何もかもカーのお陰。本当に有難う…」

「そんなことないです。モネ様の実力です」
「本当は自分は凄いって思ってるでしょ?」
アオイはニヤリとした。
「はい。私のヘレン役はなかなかでしたよ」

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