アンドロイド転生1070
2120年9月25日
東京某所 動物保護施設にて
カナタは小さな生き物にミルクを与えていた。先程運ばれて来たのだ。親を亡くした2匹の子狸。目がやっと開いたばかりだ。彼は半年前からここでボランティア活動をしている。
先輩活動員がやって来た。
「ポンタとハナコは順調か?」
「ポンタはガンガン飲むけどハナコはイマイチで…すぐに口を離すし吐き出しちゃう」
先輩はハナコを掌で包むと顔を顰めた。
「体温がちょっと低いかも。温めてみよう」
ハナコに服を着せて温熱タオルを巻き、優しく抱くと指で頭や首周りをそっと撫でた。
先輩に促されてカナタは細い注射器でミルクを与える。まだ哺乳瓶を吸う力もないのだ。ハナコは最初は嫌がったもののそのうち飲み始めた。2人は笑った。ホッとした空気が漂う。
先輩は仲間に呼ばれると後は宜しくと言って走って行った。助けが必要な自然動物は多くいる。鳥、狸、狐、兎、猪。鹿や猿などもだ。傷ついたり病気をしたり親を亡くしたり。
100年前の世の中は犬猫の保護活動が盛んだったが今はない。過剰な犬猫がいなくなったのだ。殺処分もない。それだけ人の意識が変化した。だが自然動物には保護も救護も必要だ。
カナタはその情報を知ると即座に行動を起こした。家に1番近い自然動物保護施設「あおぞら」に登録したのだ。約50人の活動員と直ぐに打ち解けて、直ぐに役立つ一員になった。
更に彼はあおぞら以外にも昨年からパートナードッグ制度にも参加している。犬と共に病院や介護・養護施設に行き人々と心の交流を図るというものだ。やはりそれも直ぐに行動に移した。
カナタの住む家には大型犬のボルゾイが飼われている。養父のサイトウ氏に頼んだのだ。
「シェリーをパートナードッグにしたいんだ」
「アイツはそんなに優秀かなぁ?」
「シェリーは頭がいいし優しいよ!」
承諾を得て犬と共にカナタも訓練所に通った。ふたりは見事突破した。シェリーの賢さとカナタの人間性が認められたのだ。
カナタは益々忙しくなった。部活動のダンスやプライベートもあるのだが時間を捻出して活動を行う。幸いな事に成績が優秀な彼は勉学の心配はなかった。試験はいつでも首位独占だ。
教師からはIQ182。偏差値90だと伝えられている。勉強に時間を割かなくても良いのは幸運だった。可能な限り活動に費やせるのだ。養父母は週末の朝に彼に問う。今日はどんな予定だと。
ちなみに今日は午前中はシェリーと病院に訪問。午後からはあおぞらへ。夜は仲間達とダンスの練習。その後は恋人のアイリと食事の約束だ。その間もシェリーと一緒だ。蔑ろにしない。
カナタは元気いっぱいでシェリーと家を出た。2人はカナタを見送りながら笑ったものだ。
「アイツはいい奴だ。大成するかもしれん」
「そうね。そんな魅力があるわね」
カナタは夕方まであおぞらで精力的に活動した。シェリーも動物達の世話など慣れたもので誰にでも自然に優しく接するのだ。そして4時になるとボランティア員も其々の作業を終えた。
夜間はアンドロイドが担う。本当は全てをマシンに任せても良いのだが人々は動物達と交流したいのだ。カナタはお疲れ様と言って手を振り合う。誰の顔にも満足の表情が浮かんでいた。
カナタはシェリーの頭を撫でた。犬は主人を見上げる。その瞳は信頼の眼差しだ。
「よし!シェリー!これからダンスだぞ!」
ふたりは走り出した。
※カナタとシェリーのボランティアのエピソードです
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