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アンドロイド転生1156

2126年9月23日 夜
職員宿舎 チアキの部屋にて

「え!サキが?」
アリスに通信したチアキだが驚く報告を受けてしまった。アリスは口元を引き締めている。目元は心配気でもあり、期待感もありだ。

『でも移植して回復して来たの。血液マーカーの数値も少しずつ上がって来たんだって。ずっとずっと苦しんでいたけれど希望が持てるようになったんだよ。頑張ってるんだよ』

そんな大事なことを何故教えてくれなかったのかと思うが人間ではない身の上。骨髄提供を出来るわけでもなく、会えるわけでもなく自分がサキのどんな支えになると言うのか。

「退院の目処は?」
『まだだけど…きっと善くなるよ』
「そうだね。私も願う」
『うん。皆んな信じてる』

するとアリスは小首を傾けた。
『ところで何の用事?』
チアキは言葉に詰まる。実は打ち明けようと思っていたのだ。サクヤに恋をしたと。

だが躊躇った。家族が大変な時に呑気に恋の報告なんてして良いのだろうかと考えたのだ。自我に芽生えたアンドロイドは心の機微が深い。他者を思いやる気持ちが生まれるのだ。

報告はサキが回復してからにしようと決めて、別の話に持っていく事にした。
「そろそろメンテかな…と思って」
『ああ…そうね』

アンドロイドは年に1度は全身のメンテナンスが必要だ。車検のようなものである。ホームに戻りキリに精査してもらうのだ。
「10/15日から5日間秋休みなの。一緒にどう?」

アリスは承諾し店の定休日に合わせて一泊2日で行く事になった。その後は簡単に互いの近況報告をする。チアキは特に変わり映えがないと言って笑うと間もなく通信を切った。

そしてベッドに横たわる。スリープモードになって充電するのだ。天井を見上げながら仕事の予定を確認した。明日は園児の誕生日会だ。全てが整っている。きっと喜ぶだろう。

するとチアキはハッとなった。そうだ。サクヤも誕生日だ。18歳になる。だが高校生の男子が家族とパーティなどしない。では友人と楽しむのか。それとも…彼女でもいるのか…?

優しくて性格の良い彼には友人が多く家を空けることが多かった。勿論、うさぎ係は疎かにしないがそれ以外の時間は学校も部活もプライベートも充分に楽しんでいる様子だ。

そう言えば…部活は何をしていたっけ…?そうだ。陸上だ。しかし受験生になって3年生はこの間引退したんだ。確か…女子マネージャーがどうとかこうとか言っていたような…。

チアキは想像する。夕焼け。グラウンド。走るサクヤ。ゴールした彼に向かって差し出すタオル。愛らしい微笑みの女の子。サクヤは笑って受け取る。2人は手を繋いで歩き出す。

それは…嫌だ…。

チアキは慌てた。何を考えているの。良いじゃないの。想像が本当であろうとなかろうと。サクヤは“人間と恋をする“。私はただのアンドロイドの保母。そう。アンドロイドの…。

・・・

翌日 9月24日 深夜
つばさ幼稚園 本宅

サクヤが帰宅した。部屋に向かう途中で母親と出会した。彼女はニッコリとする。
「お帰り。18歳おめでとう。リンちゃんと楽しんだ?美味しいものを食べて来た?」

サクヤは頷くとバッグから袋を取り出して中身を見せた。ブランド品のスポーツタオルだ。フカフカとして手触りが良さそうだ。紺と白の配色が美しかった。贈り物に相応しい。

「あら。素敵」
「部活は辞めたけど運動は好きでしょ?って」
「リンちゃん。センス良いわ」
サクヤは嬉しそうに笑った。


※サクヤが12歳の誕生日を迎えたシーンです


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