アンドロイド転生1038
2120年7月31日 夜
平家カフェ リツとアリスの寝室
子供を産みたがるアリス。愛のない子供は嫌だと拒否するリツ。だがリツは譲歩のつもりで提案してみた。ベビーアンドロイドはどうかと。だがアリスは嫌だと言う。リツに不満が募る。
「同類だろ?なんだよ?それ」
「やっぱり馬鹿にしてるのね?」
「してないよ」
「してる!やっぱりそう!」
アリスの瞳から涙が吹き出した。
「お母さんはリツの心が決まるまで待てって言ったの。だから…私…我慢してた。いつか…いつかと思って。なのにどうしてベビーなの?」
リツは眉間に皺を寄せる。
「ベビーの何がいけないんだ?」
「わ…私は…あなたに子供を残したいの。人間の子供を!マシンの私が唯一出来る事なの!」
アリスはベッドに座り込む。
「わ、私…ずっと思ってた…人間とマシンには大きな差がある。ゲンを倒した時もそう。あなた達は正しかった。でも私は怖かった!」
ソウタの恋人の仇を討つ為にアンドロイドのゲンを捕らえて監禁しウィルスに感染させた。ゲンは苦しみの中で死んだ。彼の罪は深かった。やむ得ない。だがアリスはひっそりと泣いたのだ。
「怖い?」
「そうよ!キリもそうだった。エリカを容易く殺した。人間はそうやってマシンの生死を握ってる。それを思い知ったの!」
キリは非道なエリカを機能停止した。首と身体を切り離し身動き出来ない状態で停止ボタンを押したのだ。エリカはアリスの親友だった。許してくれと何度も願ったが叶わなかった。
リツは頭を捻る。それと子供と何の関係があるんだ?リツの眉間の皺が更に深くなった。
「だから…?」
「だから…私は…少しでも近づきたい」
そうなのだ。アリスは格差を埋めたいのだ。マシンの自分でも命を産み出せることを証明したいのだ。リツと時を重ねる度に思い知るのだ。本当に自分の存在は彼にとって良い事なのかと。
だから良い事をしたい。子供好きなリツの笑顔を…他人の子供に向けるのではなく…自分が産み出した赤ん坊に向けて欲しい。私の存在が善だと確信が欲しい。いつもいつも不安なのだ。
アリスの願いは本当は人間になってリツと共に歳を重ねていきたいのだ。しかも飲食業なのに食事も出来ない。それが寂しい。自分がアンドロイドなのだとまざまざと実感するのだ。
リツはアリスの隣に座り込み肩を叩いた。
「ハッキリ言う。お前はアンドロイドだ」
アリスのどこかの回路が止まりそうになった。またリツから正面切って宣言された。
「そ、そんな事…分かってるよ…」
「俺とお前は違う」
アリスは腹が立ってくる。
「分かってる!」
リツはアリスを抱き締めた。
「でも…俺はお前が好きなんだ。分かってくれよ。最近…ずっと堂々巡りだよ。人間とマシンでもいいじゃないか。俺は一生変わらないぞ」
アリスは思う。きっとリツは私の気持ちを理解しない。私達には越えられない壁があるのだ。結局は人間に造られたと言うこの身の上が辛い。そう。同等ではないのだ。
アリスはポツリと呟いた。
「ベビーは嫌です…」
「分かった。悪かった」
リツはアリスを抱き締め続けた。
※ゲンの一件でアリスが泣いたシーンです
※エリカの一件でアリスが泣いたシーンです
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