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アンドロイド転生1187

2127年3月22日
つばさ幼稚園 園舎にて

「チアキ先生。今日の午後にサクヤ様は女性のお友達を連れて来るみたいですよ」
同じ保母仲間のユキは造花を作りながら微笑んでいる。チアキの胸に小さな波紋が広がった。

「…彼女かな」
「そうかもしれませんね。サクヤ様とその方は高校の同級生で同じ大学に入学するそうです。だからご両親に紹介したいのでしょう」

ユキは元はサクヤのナニーだ。12年間の養育を終えてラボに返却の予定だったが園長が彼女をナニーから保育士として迎え入れたのだ。園長一家と付き合いが長いユキは彼らと親密だ。

「トモミ先生から…聞いたの?」
トモミとは園長の妻。つまりサクヤの母親だ。
「そうです。とても嬉しそうでした」
「そう…」

サクヤに密かに恋心を抱くチアキだが、やがてフッと笑った。サクヤに彼女がいようがいまいが私には関係がない。私はアンドロイドの保母。幼稚園でただ仕事をこなすだけの存在。

この先もずっと永遠に。その間にサクヤは自分の人生を好きなように歩んでいく。
「そっか。一緒の大学に通って幸せだね」
2人は笑うとまた造花作りに専念した。

・・・

つばさ幼稚園 本宅 リビングにて

サクヤは両親に女性を紹介した。
「ユウキリン(結城凛)さんだよ」
リンは手土産を差し出し頭を下げた。
「宜しくお願い致します」

両親とリンは初対面だが既に電話(立体画像)で何度か面識があり親しみを感じていた。母親のトモミは満面の笑みを浮かべている。
「リンちゃんと同じ大学でサクヤは嬉しいって」

リンは艶やかな頬を染めて笑顔を輝かせた。
「私も嬉しいです」
その後4人はなごやかに談笑し穏やかな時間を過ごした。

1時間も経つとすっかり4人は打ち解けて大きな笑いに包まれた。サクヤとリンの部活の成功話や失敗談。2人の馴れ初めなどに盛り上り、今後の大学生活の期待や希望なども語り合った。

やがてリンは隣接する幼稚園を見学したいと言い出した。園長のユウサクは大喜びだ。先頭に立って案内を始めた。敷地2000坪の広大な園内は緑が豊かでプールやアスレチックも完備されている。

園舎は自然素材で出来ており木の温もりと優しい香りで満ち溢れリンは心が安らいだ。作業室では多くのアンドロイドが造花作りに励んでいた。幼稚園は春休みだが彼らに休みはないのだ。

リンは不思議そうな顔をした。
「何故…お花を作っているんですか?」
どうやら彼女が通っていた幼稚園とは様子が違うらしい。

ユウサクは得意げに胸を張った。
「入園式をパッと華やかにしたくてね。僕は手作りの飾り付けがいいと思ってるんだ」
「ああ、素敵ですね。良いです。とっても」

サクヤがハッとした表情になった。
「チアキ先生。モモとアンズは大丈夫?」
全員の視線がチアキに集まる。
「まだ産まれません。明日辺りでしょう」

サクヤはホッとするとリンを見た。
「出産ラッシュなんだ」
リンは微笑み返した。サクヤがうさぎ係だと知っている。彼の優しさが好きなのだ。

するとリンはチアキに顔を向けた。
「あなたがチアキさんね?彼からよく聞いてるの。2人でいつも世話してるって。彼のことを先輩って呼んでるんですって?」

「はい。そうです。うさぎのプロですから。そうですか。私をご存知ですか。私はあなたの事を知りませんでした。初めまして。宜しくお願い致します」
チアキは思う。そう。全然知らなかったと。



※サクヤとユキのシーンです

※チアキがサクヤに恋をしたシーンです


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