アンドロイド転生1064
2120年8月28日 早朝
新宿 平家カフェ
キリとタカオの乗った車が出発しカフェの一同と手を振り合った。急遽早朝に発つ事になった。理由は父親から連絡が来て急用で呼ばれたと言う事にした。実際は吉祥寺に向かう。
エリカに会うのだ。父の告白とイヴの提案とタカオの応援でキリは決意した。エリカは恨みをぶつけるかもしれない。けれど罰を下したのは事実だ。覚悟の上で全てを受け止めるつもりだ。
キリは昨晩タカオに鬱病である事を打ち明けた。更年期の不調だとずっと誤魔化していたのだ。告白してみると何だか気が晴れた。我慢して黙っている事はなかったと思う。
タカオは納得した顔をする。確かにキリはここ2年ばかり覇気がなかったし、かなり痩せたのだ。
「なんで言ってくれなかったんだ…」
「エリカの事で自分を否定したくなかった…」
タカオはポンと妻の背中を叩いた。
「分かるけど…。だが無理するな。我慢するな。俺はお前の強い部分だけに惚れたんじゃない。弱い部分だって受け止めるぞ。ドンと来い」
「へぇ。そんな頼もしい男だったの?それはもっと早く教えて欲しかったなぁ」
「人間は遅い事はないぞ?親父さんだってエリカを残すなんて粋なことをしたじゃんか」
キリはハッとなると満面の笑みを浮かべた。
「そうだね。うん」
だが直ぐに顔を顰めた。
「でも…きっとエリカは不満だらけだよ」
タカオは清々しい顔をした。
「よし。不満でも何でも受け止めよう。俺達はエリカの元の親じゃないか」
キリはまたハッとなり微笑むと小さく頷いた。
・・・
吉祥寺 井の頭公園
公園に到着すると2人は車から降りた。敷地内に足を踏み入れる。緑が繁り花々が朝露に光っていた。気分が晴れ晴れとする。多くの人が其々の時間を楽しんでいた。
2人はイヴの案内に従ってスズキ夫妻を探した。やがてバギーを押す若い男女の背中が見えた。
「いた!タカオ!いたよ!」
「よし。自然な流れで話し掛けよう」
キリ達は迂回してスズキ夫妻と正面になるように歩いて行った。視力の良いキリはエリカの顔がよく見える。目が合うのかと思いきやエリカは見もしないで縫いぐるみをしゃぶっている。
2組の夫婦はどんどん距離が近付いた。5m程でキリが驚いたような顔をした。
「あら?もしかして…昨日の…?」
スズキ夫妻は立ち止まる。
ランはえっ?と言うような顔して直ぐに笑った。
「あ!昨日の!この辺りなんですか?」
「ええ。そうです。あ…夫です」
タカオは微笑んで頭を下げた。
夫婦達は互いに奇遇だと笑いながら、天気の話や時勢の話題などに盛り上がった。その後の計画はこうだ。タカオとスズキ夫妻を残してキリはこの場を離れる。タカオは話題を提供する。
ランはガーデニングのアマプロだ。木や花の栽培について話を持ち出せばきっと食い付いてくる。案の定、ランは瞳を輝かせた。タカオが是非教えて欲しいと言うと大喜びだ。
とうとうベンチに座り込んで話し始めた。タカオは興味津々の顔でふんふんと頷く。キリは立ち上がってニッコリとする。
「飲み物でも買って来ますね」
キリはチラリとエリカを見たがこちらを見ようともしない。相変わらず縫いぐるみを口に入れて夢中だ。そんな姿はまるで赤ん坊だった。ベビーマニュアルが大きく影響するらしい。
キリは勢い良くどんどん歩き出す。彼らの姿が小さくなるとリングを起動した。
「イヴ。離れた」
『計画通りですね。では…』
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