アンドロイド転生1098
2126年3月10日 夜
都内某所 レストラン
ユリウスは微笑んでシャンパンを掲げた。
「モネ。24歳おめでとう。映画出演もおめでとう。素敵な女性を演じてくれ」
「有難う。うん。頑張る。楽しみなの」
彼はデンマーク王国の王子でモネの恋人だ。ユリウスは現在26歳。20歳の時にモネの通う大学に留学生としてやって来た。22歳で帰国したのだが昨年再来日したのだ。
・・・
(回想 昨年のこと 2125年3月)
ユリウスは王位継承権第4位。父と兄2人が先に控えているのだ。自分が王になる確率は低い。ならばフレキシブルに生きたって良いではないか。そう思った。夢は言語学者なのだ。
日本にまた留学したいと両親に願うと、ならば最高峰に進学しろと言い渡された。だから東京大学の大学院に挑んだ。優秀な彼は難なく合格した。また日本の地が踏めるのだと感激した。
お忍びで来日すると意を決して彼はモネの家に訪れた。驚くモネに宣言した。
「僕は君が忘れられない。君が僕の想いに応えてくれる日まで待つつもりだ」
ユリウスは本国でも日本語を学び続け更に流暢になっていた。まるでネイティブだ。それだけ彼の愛が深かったと言えよう。モネの母国語を覚えたいという必死の思いだったのだ。
モネは胸がいっぱいになった。
「まさか…また日本に来るなんて…。あ…有難う。私も好きよ。でも…やっぱり友達なの…」
「分かってる。でも諦めない」
彼には愛の告白をされたことがある。ハロウィンパーティの夜だった。自分はまだ18歳で全てが始まったばかり。学業もサークルもモデルも女優もどれが宝物だったのだ。
ユリウスは容姿端麗で頭脳明晰。性格も良い。王子なのに一般人と同じ目線でいられるのだ。素敵な人だと思うし好きだった。しかしそれは“恋“ではなかった。だから丁重に断った。
ユリウスは当然のように受け止めて、その後も変わらず友情を育みやがて帰国した。もう2度と会う事はないと思っていた。だがその人が目の前にいる。自分を忘れられないと言うのだ。
3年振りに会ったユリウスは大人だった。帰国した時は22歳でまだ何となく少年のような雰囲気もあった。それが25歳の彼は肩幅が広くなり胸板も厚くなり頬が引き締まっていた。
友達ならと応じて再度交流を始めた。彼は相変わらずうっかりミスをして笑わせる。そしていつも彼女を見守っていた。優しい眼差し。明るい笑顔。前向きな態度。どんな時も味方なのだ。
ある日。街を2人で歩いていると(勿論、ユリウスにはSPが陰で警護しています)モネは躓きそうになった。彼は咄嗟に支えた。その俊敏な動きに驚いた。いつもの鈍臭い彼ではなかった。
ユリウスは笑った。
「あー。良かった。抱き止められて。レディがピンチな時に何も出来なかったら男失格だ。これからも何かあったらいつでも駆けつけるぞ」
いつでも駆けつける…その言葉がモネの心に刺さった。そうよね。ユーリは私を助けてくれた事がある。5年前のハロウィンの夜。渋谷で若者達からの横暴から守ってくれたのだ。
モネはユリウスに対してずっと異性を意識していなかった。“外国人の王子様“と言う目線だった。やはり自分とは違う世界の人だと思っていたのだ。その通りで彼は誰からも注目される。
彼の隠し切れない品位が滲み出ているのだ。こんなに素敵な人が本当に私を想っているの?と思う。モネはユリウスを友達から少しずつ昇格させていった。だって…私の“理解者“だもの。
※モネとユリウスの出会いのシーンです
※ユリウスに告白されたシーンです