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アンドロイド転生1132

2126年6月30日 午前9時過ぎ
目黒総合病院にて

HLA検査をする為に茨城県からやって来たサキの両親のヒロシとアカネ。病院に到着するとナースアンドロイドは聞き取りを始めて顔を顰めた。
「通常、ドナーは60歳までなのです」

全員が驚いた。ナースは続ける。
「ですが親の場合は65歳までは検討会を経て認められる事もあります。しかし検査が厳しくなります。さて。ご両親様。保険証をお願い致します」

ケイは愕然となった。自分とした事がうっかりしていた。そうだ。国民は登録してあるからこそ本人の証明が出来るのだ。しかしホームの住人は国民ではないのだ。

ケイが頭を下げた。
「保険証は持っていません」
「保険証がないのなら、年金手帳か住民票か戸籍謄本のご提示をお願い致します」

ヒロシ達はケイを振り返った。ナースが何を言っているのか理解が出来ないのだ。ケイは顔を顰めた。
「どれひとつ持っていません」
「身分を証明するものはお持ちではないのですか」

ナースの訝しげな顔を見てヒロシは慌てた。
「待って下れ!俺は間違いなく65なんだ」
ケイは諦めて溜息をついた。
「国民には証明書があるんですが…」

ヒロシは理解したものの渋い顔をする。
「俺達には…ないって事だな?」
「そう言う事です。生年月日さえ証明出来ない非国民なのです。ホームの欠点と言えましょう…」

ヒロシはテーブルを叩いた。
「じゃあ!どうすれば良いんだ!」
「国民登録をしている血縁者に頼む他ありません。1番可能性が高いのはシオンです」

※一般的に親戚のHLA適合率はかなり低いです。ですがホームの場合は近親婚の集団の為、血が近いのです

「シオン?何でだ?」
「サキとは親戚の中でも1番血が近いんです。型が適合する可能性があります。ですがその確率は…1/200です」

ヒロシは目を丸くする。
「に…200分の1…⁈お…俺達は⁈」
「1/30です」
「じゃあ…やっぱり俺達の方がいいだろうよ!」

「ええ。本当はお父さん達に国民になって頂き…そして医師に年齢の検討をしてもらい許可が出たら検査をする。型が合えば移植です…」
「うん。いいじゃないか。それで」

ケイは話しながらwebを検索して情報を得た。
「ですが…問題があります。国民になるには申請してから20日を要するそうです。それから年齢の検討会、合否、検査…。時間が掛かり過ぎます」

「先に検査しちまえば良いんじゃないか?その後に国民になったって良いだろう?」
ナースが首を横に振った。
「国民ではない方の検査を致しません」

ヒロシは眉を吊り上げてまたテーブルを叩く。
「細かい事を言うな!娘の命がかかってんだ!」
「こちらも責任があるのです。例外は認められません。早く国民の方と連絡を取って下さい」

ヒロシは渋々頷いた。
「よし。分かった。シオンに頼もう」
「お父さん。残念ですがシオンは…今…フランスにいるんです」

「ふらんす?どこだ?」
「外国で…日本の反対側です」
そう言えば…とヒロシは思い出す。弟(シオンの父親)が喜んでいたじゃないか。

ケイはまたweb検索をした。
「明日からパリコレが始まります。シオンは全ての日程で参加する予定になっています」
「ぱりこれ?」

「パリはフランスの地名。コレはコレクションの略。世界最大のファッションショーです」
「ファッショ…?世界最大…って何をするんだ?」
「彼はスーパーモデルです」

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