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アンドロイド転生1157

2126年10月12日
高速道路 車中にて

「恋をしたの?」
アリスの言葉にチアキは驚いた。
「なんで…?」
「だってサクヤさんの話ばかりしてる」

2人はタクシーに乗って茨城県に向かっていた。東京から約2時間半。間もなく麓に到着する。その後は村まで50分程かけて山を登る。年に一度の里帰り。メンテナンスの為である。

アリスは微笑んだ。
「もうすぐ2時間半だよ」
チアキは恥ずかしくなった。私はそんなに長い時間サクヤについて語っていたのか?

「ね!恋してるんでしょ?だってクールなチアキがそんなに熱く話すなんて初めてだもん」
チアキは俯いた。人間だったら顔を赤らめるところだろう。胸が高鳴っているだろう。

「で?告白したの?」
「しないよ。するわけない。サクヤは人間。私はマシンだもん。あり得ないよ」
「私はリツと何年付き合ってると思う?」

チアキは繁々とアリスを見つめた。計算するともう16年ではないか。
「リツは…ジェネだもん。サクヤは違うと思う」
「聞いてみたら?」

※ジェネ(ニュージェネレーション)はアンドロイドと恋をする人間を指します

チアキは目を丸くする。
「そ、そんなこと聞けるわけない…!」
自我が芽生えたチアキは恋する心も人間と同じように動く。躊躇いがあるのだ。

「片想いでもいいの?」
「いい!全然いい!」
そうだ。サクヤをずっと見守れればそれで満足だ。いつか彼は結婚し、父親になるだろう。

「サクヤの家族を見られれば満足なの。保母としてずっと働ければ言うことないの」
「私は…嫌だなぁ。そんなの寂しい。だから子供が欲しい。リツの子を産みたいの」

チアキは頷いた。アリスの気持ちはよく知っている。もう何年も前からずっと望んでいる。
「叶うといいね」
「うん」

・・・

茨城県白水村

ホームに戻って来た2人。7人の子供達が出迎えた。親が滅亡派なのだ。国民にはなれない。だが今年の春にヤマトと2人の少女が国民になった。いつか彼らも旅立つかもしれない。

丘を登ると墓にやって来た。家族が眠っているのだ。色とりどりの花が咲いている。2人は手を合わせて彼らを悼んだ。空に笑顔の幻影が見えるような気がした。

※ホームの故人達とアンドロイド(トワ、ミオ、ルーク、エリカ)の墓です

リペア室に行って、キリと1年振りの再会を喜んだ。早速2人は寝台に横たわりメンテナンスが開始された。キリがいるからホームのアンドロイド達は問題なく機能出来るのだ。

・・・

数時間後

メンテナンスが終わると、アリスはサキやシオンの両親と会ってサキの回復を喜び合っていた。チアキは憂いてしまう。こんなにも一致団結しているホームの人達の行く末を。

8年前に滅亡派と存続派に分かれて議論した結果、滅亡派が勝利した。90年近く前にタウンの活気盛んな輩が村を襲った事を許さない。国民にならず平家の誇りで散ると言うのだ。

存続派は納得したものの、若者達の未来を潰したくないと街に送った。その結果が現在に至る。若者達は其々の道を歩んでいる。素晴らしいことだ。心から応援したい。

だから…とチアキは切なくなる。本当は村民全員が国民になって欲しい。しかし一介のアンドロイドの私。言える筈もない。人の誇りとか信念は理解出来るけど厄介だなと思っていた。

・・・

翌日

里の出入り口で家族に見送られた2人。キリが微笑んでまた来年と言った。来年も再来年も続くだろうが…ずっとその先は…?チアキは頭を振ると考えないようにして歩き出した。


※存続派が若者を街に送ると決めたシーンです

※アオイがメンテナンスで里帰りしたシーンです。家族の墓に訪れて哀悼しました。


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