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アンドロイド転生1050

回想 8月17日 スズキ邸にて
エリカが復活して3日目

今日もスズキ夫妻はエリカの世話を焼く。2人はどんな些細な事でも大喜びだ。そんなにベビーの存在が嬉しいのかとエリカは驚いていた。そんな彼女も少しずつ状況に順応して来た。

ランはエリカを抱くと優しく身体を揺らす。
「あのね?私が好きなお花はね?スズランなの。花言葉は“幸せの訪れ“。素敵でしょ?だからスズランに似たエリカって花も大好き」

イヴが通信してきた。
『エリカの花言葉は“孤独や寂しさ“だそうですよ。以前のあなたの心情そのものですね』
『以前?どういう意味よ?』

『あなたは主人に捨てられた。タケルは振り向いてくれなかった。その寂しさから道を外れてしまったのです。違いますか?』
エリカは言い返す事が出来なかった。

『今はどうですか?寂しいですか?』
エリカは考え込んだ。どうだろう…?
『分かんないよ…』
『そうですか』

いや。寂しくなる事はある。気が付くとスズキ夫妻を目で追っていて姿が見えなくなると不安になりグズグズと泣き出した。2人は慌ててやって来る。抱き上げられるとホッとするのだ。

彼らの存在がエリカの中で急激に大きくなっていた。そばにいて欲しい。笑って欲しい、抱き締めて欲しい。かつ正の感情が強い。楽しい、嬉しい、幸せ。全てベビーマニュアルである。

ランが悪戯っぽく笑って顔を隠した。
「エリちゃん。いないいない…ばあ!」
ランの楽しげな顔を見ると途端にエリカも嬉しくなってキャッキャと声を上げた。

イヴが揶揄うように笑った。
『ご機嫌ですね』
途端に恥ずかしくなる。
『う…うるさいなぁ…』

『そう言えばエリカの花言葉には孤独や寂しさの他に“博愛“もあるんですよ』
エリカは黙り込む。暫くすると笑った。
『へぇ…素敵だね』

ランがニッコリとした。
「エリちゃん。ママ。ママよ」
エリカの口は上手く動かない。アウアウと言うだけ。それでもランは喜んだ。

エリカは唐突にランをママと呼びたくなった。ずっとクソ女と思っていたのに心が変わったのだ。こんなにも誰かを呼びかけたいと思うのは初めてだ。タケルを呼ぶのとは違っていた。

何が違うのだろうとエリカは思う。彼女はまだ分からないがタケルに対するそれは執着心だった。彼が自分から離れる事を恐れてしがみつきたい気持ちの現れだった。

しかし今のエリカに恐れはなかった。無意識ではあるがスズキ夫妻は離れないと言う自信があるからだ。確かに姿が見えなくなると不安になる。だが必ず戻って来ると信じられるのだ。

エリカに変化が起きた。復活した当初は怒りと不満しかなかった。そこにベビーマニュアルの楽しい、嬉しい、幸せというプログラムが支配して彼女の心を正と負がせめぎ合っていた。

だが自分の状況を受け入れて心が落ち着いて来た今は“人を愛する“ことに心が占められていた。自分の目の前にいる親代わりのランを。
「マ……マ…」

ランの目が驚きに見開いた。
「パパ!エリカがママって言った!」
すると夫が飛んで来た。パパと言ってくれとせがむ。だが上手く口が動かない。

「エリちゃん!またママって言って!」
やはり思うように動かない。先程は偶然だったようだ。エリカは思う。でもきっと言えるようになる。そしていつか大好きと言うのだ。

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