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アンドロイド転生1119

2126年6月16日 午後2時過ぎ
富士山8合目 ロッジにて
(撮影2日目)

食事の支度の手伝いを申し出たアオイ。タケルにどうしても聞いてみたいことがあった。
「あのさ?何で…村を出たの?」
タケルの頬が強張った。

その表情を見てアオイは慌てた。
「あ…ごめんなさい。プライベートな事でした。失礼でした。忘れてね」
「いつか話せたら話す…」

アオイは頷くとタケルから離れてアンドロイドのアマネの指示に従った。自分の頭を叩きたくなる。馬鹿アオイ。久し振りに家族と会えて浮かれてしまった。好奇心に負けたのだ。

人には言いたくない事だってあるものだ。妹のように思っていたエリカに暴力を振るったなんて余程の事だ。2人には大きな何かがあったんだろう。私に入る余地はない。

アマネがニッコリとした。
「アオイさん。今日は肉じゃがですよ!」
「はい。胡麻油を入れると美味しいんですよ」
「へぇ!そうなんですか!」

アマネは20歳モデルで元気で明るい。山の従業員に相応しいマニュアルなのだ。自我の芽生えはなくプログラム通りに動く。ハキハキとしており気持ちが良い。一緒にいて楽しかった。

・・・

夕食の時間になると登山客は食べ始めた。その隣で撮影隊は食事シーンを撮る。色んなアングルから撮る度に食事が冷めていく。その都度温めるのだ。湯気がポイントらしい。

役者達は登山客の好奇の視線などお構いなしで、どんどん芝居を進めていく。泣いたり笑ったり忙しい。アオイはいつも感心していた。女優になりたいなんて甘かったなと思う。

モネは役柄になりきって演じていた。声色、表情、目線、仕草。いつものモネではない。別人だ。やっぱり才能があるのだと思う。何より魅力的だ。それは女優として強みだろう。

今日の分の撮影が済むとホッとした空気に包まれた。オーナーのケントがやって来る。
「皆さん。お疲れ様です!サウナをご用意致しました。サッパリして下さい!」

アオイは驚いた。サウナ?山の頂上付近で?そんな事が可能なのか。ケントはニッコリとする。
「2日に一度ご用意します。こちらです!」
彼が先頭を切って案内した。

一同はロッジの裏手にやって来た。目を見張るほどの大きな繭のような物が2つあった。
「男性は右。女性は左です。中は蒸し風呂です。この裏にはジャグジーもありますよ」

モネは入りたいと言い出し、女優達と大はしゃぎで着替えを取ってくると内部に入った。ムッとする熱気に包まれた。スチームが焚かれており、花のような良い香りが充満している。

モネは服を脱いでバスタオルを身体に巻いた。小さな椅子が並んである。腰掛けると笑った。
「気持ちいい〜!最高〜!」
女優達もモネを真似た。目を瞑って深呼吸する。

アオイはサウナを眺めて感心していた。
「アマネさん!凄いです。山の上でお風呂だなんて昔じゃ考えられなかった。ビックリ!」
「昔って?」

アオイはハッとした。興奮して思わず口走ってしまった。オロオロとなる。
「え…えーと…。その…」
アマネは微笑んで特に追求してこなかった。

30分後。夢見心地のモネがフラフラとしながらロッジに戻って来た。花の香りが立ち昇る。
「カー。気持ち良かったよ…」
「それは良かったですね。サッパリですね」

モネはアマネから炭酸水を貰った。首を伸ばしてゴクゴクと音を立てている。アオイは羨ましかった。サウナかぁ…。私も汗がかけたら入りたかったなぁ。サッパリするだろうなぁ。

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