アンドロイド転生1063
2120年8月27日 深夜
平家カフェ 住居部分にて
「ベビーアンドロイドなんているんだねぇ…。私ビックリしちゃったよ。普通の赤ん坊だった」
キリは風呂から上がり、化粧水をはたく。
「そうらしいな。キヨシさんが言ってた」
タカオは店主のキヨシと日中を過ごし居酒屋を梯子したらしい。キリはマユミとレストランで夕食を楽しんだ。其々が有意義に過ごしたのだ。明日は帰村だ。昼頃に出ようと思っている。
イヴのホログラムが宙空に浮いた。
『村長(キリの父親)がお話しがあるそうです』
「え?こんな時間に?」
キリはタカオと顔を見合わせた。
イヴの隣に父親のサトシの立体画像が浮いた。
『今日…赤ん坊と会ったらしいな』
キリは驚いた。突然何を言い出すのだ。
「あ…うん…アンドロイドだけどね…」
『その赤ん坊は…エリカだ。あの審判の日にイヴに頼んだ。コピーしてくれと。アイツは確かに非道な事をした。だが…やはり気の毒に思えてな…。いつかチャンスを与えたいと思ったんだ』
キリは呆然となった。サトシは続ける。
『2年ばかりクラウドに保存していた。そしてつい最近エリカは生まれ変わったんだ。リョウのアイディアでな。赤ん坊が良いと言ってな』
「リョ…リョウが…?」
『ああ。幸せなのに心がパッとしないと。エリカを復活させたいと言って…勿論つい最近までコピーがあるなんてアイツは知らなかった』
サトシはジッとキリを見つめた。
『お前は…エリカの警告音を削除して自由にしてしまったからだと…リペア室の責任者だからと…並々ならぬ決意でエリカを葬った』
「う…うん…」
『だから私は…お前の行いを否定すると思ってな。エリカの転生は私とイヴとリョウしか知らん。墓場まで…と思ったんだ。だが…』
イヴが引き取った。
『エリカが今日、私に願ったのです。キリに告げたい。だから村長に頼んで欲しいと』
『そして私はお前に言う事に決めたんだ』
サトシはジッとキリを見つめた。
『すまんな。勝手な事をして』
キリは慌てて首を振った。
『あ、謝らないでよ…!』
キリは頭の中で整理する。あの赤ん坊は…エリカだった。私に縫いぐるみを投げつけた。あれは…きっとワザとだ。怒り?恨み?アピール?何にせよ…良い気持ちの表れではないだろう。
コピーされて生まれ変わって…どんな気持ちだろう?幸せなのか?いや。そんな事はない。ベビーだなんてきっと不自由だ。あのエリカの事だ。恨みと怒りでいっぱいな筈だ。
イヴが良い提案があるとばかりに微笑んだ。
『エリカの住まいは吉祥寺です。両親と共に毎朝井の頭公園まで散歩に行きます。明日の朝、会いに行きませんか?如何ですか?』
キリは鼻で笑った。
「会ったところで…エリカの恨みを聞くの?」
『恨んでいるかどうか話をしてみましょう』
キリは黙り込んだ。
タカオがキリの肩をポンと叩く。
「何を迷っているんだ?話さなくちゃ分からない事もあるだろう。俺は何でも協力するぞ」
キリは夫を見つめて漸く小さく頷いた。
『私が2人の会話を繋ぎます。しかし直接会話は出来なくても目と目を見れば通じ合うものがあるかもしれません。ではエリカに伝えます』
イヴとサトシの画像が消え失せた。
「こんな展開になるなんて…」
「銀座に行ったお陰だな。しかもサキのめでたい話からベビーショップに行ったんだろ?ほら。動けば風が吹くんだ。だろ?」
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