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アンドロイド転生1055

2120年8月26日 午後
新宿区 平家カフェ

新婚夫婦とキリとタカオが乗った車が平家カフェのパーキングに駐車した。リョウは車から降りると感慨深い瞳でカフェを見上げた。2年前の今頃、ここに泊まり翌日には渡英したのだ。

カフェの扉がスライドしてアンドロイドのアリスが出迎えた。リョウを見て微笑む。
「久し振り。待ち兼ねてる人がいるよ」
リョウはうん?と首を捻った。

店内に入る。今日も人で賑わっていた。カウンターにいる店主が白い歯を見せた。
「よお!元気そうだな」
「叔父さん。久し振り」

リョウは右手を広げてミアの背を押した。
「俺の奥さんだ」
「あのリョウが…奥さんだもんなぁ…」
「またそれかよ。皆んなそれだ。まったく!」

リョウが膨れると妻のマユミも息子のリツも吹き出した。キリ達も店内に入る。他の客の迷惑にならないように彼らはひっそりと笑い合う。ミアは瞳を輝かせて其々と挨拶を交わした。

リツが時間を確認する。
「そろそろランチタイムは終わりだ。お客が帰ったらゆっくり話そう」
やがて最後の客を見送り休憩となった。

するとテラス席にいた男女の2人が扉を開けて店内に入って来た。大きなお腹の妊婦は髪を短くカットしておりボーイッシュな印象だ。
「リョウ。久し振り」

リョウは目を丸くした。
「サ…サキ…」
サキはケイに手を差し出す。ケイが誘導すると片方の手で腹を押さえて椅子に座った。

リョウの隣にいたミアはサキについて思い出す。夫の初恋の人で盗撮をした…彼女の裸を。それは良い。いや、良くないがミアはちゃんと理解したのだ。リョウの想いや反省を。

綺麗な人だなとミアは思う。明るくて前向きで多少の事には動じなさそう。そして…目元が優しい。こんな人なら好きになっちゃうな。片想いで終わらなかったらどうだったかな。

サキはミアに顔を向けるとニッコリとした。
「結婚おめでとう。リョウ兄ちゃんを宜しく」
サキは敢えて兄と言ったのだ。
「有難う御座います」

サキはリョウを見て悪戯っぽい顔をする。
「こ〜んな可愛いお嫁さんなんて信じられないよ。大事にしないとバチが当たるね」
「はいはい。分かってるよ」

リョウはチラリとサキのお腹を見た。サキは直ぐに勘付いた。ニヤリとする。
「ビックリした?叔母さん(マユミ)達もビックリしたの。妊婦になって初めてここに来たの」

マユミは大袈裟に目を見開いた。
「アカネ(サキの母親で妹)だって、サキだって何にも言わないんだもの。リョウが来るって言ったら…来たは良いものの…このお腹!」

サキはハハハと笑って腹を撫でた。
「この子はきっとケイにそっくりだと思うよ」
リョウは驚いた。サキはまたニヤリとする。
「ケイがパパだもの。ね?ケイ?」

アンドロイドのケイは微笑んだ。
「僕に似た遺伝子を使ったからね」
リョウは頷いた。そうか。そういった選択をしたのか。サキ…ケイとの人生を決めたんだな。

リョウは遥か昔を思い出す。サキをずっと妹のように思っていたのにいつしか頭から離れられなくなった。けれど告白なんて勇気もなくてその想いが高じて馬鹿な事をしてしまった。

2年前に謝罪して和解した。その頃にはまた妹のような気持ちになっていた。今もそうだ。だから俺はお前の選択を応援する。大きなお腹のお前はまるで聖母だ。心から言うぞ。おめでとう。


※リョウがサキに詫びたシーンです


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