アンドロイド転生1059
2120年8月27日
2年前。キリはエリカに制裁を下した。それから間もなくふとした時にエリカの笑い声や呼ぶ声が聞こえるようになった。村を去ったタケルやアリスと一緒のシーンも見掛けるのだ。
胸がザワザワとする。だがシッカリしろと思う。ただの幻影じゃないか。だからタカオにも打ち明けなかった。そして気が付くと窓の外を眺めてボーッとしている。そんな自分に驚いた。
真夜中にふと目が覚める。何だか悲しくなってくる。また眠ろうと思うのだが眠れない。白々と夜が明けてしまう。それが毎晩続くのだ。私はどうしたんだろうと思い悩んだ。
そしてあの日。初めてリョウが渡英した日。空港に送り届けて平家カフェに戻るとマユミに打ち明けた。10歳も年上の彼女は人生の先輩だ。マユミなら親身になってくれそうな気がした。
2人で銀座に行きドラッグストアに立ち寄った。AIに診断してもらうと軽い鬱という答えだった。半分は驚き半分は納得したのだ。薄々は分かっていた。エリカの事が尾を引いてるのだ。
どうすれば良いのかとAIに尋ねた。
『抗鬱薬の服用をお勧めします。ですが医師の処方箋が必要です。まずは病院に行き医師から正式に診断をして貰う必要があります』
マユミが真剣な顔をする。
「そうね。病院よ。一緒に行くから」
言われるままメンタルクリニックに訪れた。診察を待つ間にマユミは説明を始めた。
「あのね?日本ってアンドロイドの開発でとても裕福なの。だから国民は医療費も薬代も無料なの。でもあなたは国民ではない。そうなると自由診療になる。かなり高額になるの。でも安心ね」
キリは頷く。ホームの資金は潤沢なのだ。だが人に自慢出来る金ではない。泥棒家業で得たものだ。しかし汚れていようが綺麗であろうが金は金。それが私を救ってくれるのだ。
そして医師アンドロイドの診察の結果キリは鬱であると診断され、今後はオンラインでカウンセリングを受ける事になった。薬も処方された。次回からはマユミが代わりに受け取る手筈だ。
処方薬局はキリの住む山奥まで配達などしないのだ。マユミは大丈夫だとニッコリとする。
「月1でタカオさんが来るじゃない。荷物の中にこっそり入れておくわよ」
そう。タカオはホームの為にマユミ達が買っておいた日用品をカフェに取りに来るのだ。キリはマユミの行動力と思い遣りに感謝した。
「何もかも有難う」
「当然よ。家族だもの。それよりもどうなの?タカオさんに言わないつもり?」
キリはコクリと頷いた。エリカの事を昇華出来るまでは誰にも言いたくなかった。
それから間もなくして息子のルイもホームから去った。応援しているのにやはり寂しかった。しかもエリカの幻影は消えない。時にはシクシクと泣いているのだ。それが辛かった。
しかし何とか気丈にも明るく振る舞うのだ。そんなキリに医師は無理をするなと忠告をする。笑顔を作るな。泣きたい時は泣け。頼りたい時は頼れと。それが心を癒す事になるのだ。
だがキリの性格はなかなかそうはいかない。弱い自分を見せたりしたらエリカにした行いも間違っていたのかと後悔を口にしてしまうかもしれない。そしたらエリカは報われない。
2度と復活出来ないアンドロイドの死を悔やんでしまったらエリカが可哀想ではないか。だから私は間違っていなかった。正しかったのだと自分に言い聞かせていた。
※タカオが日用品等の受け取りでカフェに行くシーンです