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アンドロイド転生1185

2127年3月6日 夜
平家カフェ

「有難う御座いました!」
最後の客を見送りソラは満足感を覚えた。テーブルに戻り食器を運んでいるとリツがお疲れと言って微笑みかけた。

リツの母親のマユミと3人で手際よく片付けを済ませると、店主のキヨシが4つのトレイをテーブルに並べた。湯気が立ち上る賄い食だ。
「座ってくれ。食おう」

大学生のソラの食欲は旺盛だった。美味しそうに頬張る姿に3人は目を細めた。ソラは今日からアリスが出産するまでの約9ヶ月間、平家カフェで臨時バイトとして働くことになった。

リツは頭を下げた。
「有難うな。助かった」
キヨシも大きく何度も頷いた。
「感謝してる。本当に」

ソラは3人を見つめて微笑んだ。
「平家カフェが流行っている理由が分かりました。美味しいのは勿論のこと、何よりも皆さんが楽しそうに働いているのが伝わってきます」

そう。この店の魅力は親子3人のやる気と生き甲斐に溢れた雰囲気そのものなのだろう。店主は心底嬉しそうに笑った。
「そう言ってくれると嬉しいなぁ」

食事を終え、ソラは店を出て駅へと向かう。外は少し肌寒いが春の気配が感じられる。草木が芽吹き始める季節だ。間もなく桜も開花するだろう。ソラは17年前の春を思い出していた。

・・・

(回想 17年前のこと 2110年3月25日)
ソラと母親のクレハ(スオウトシキの愛人)の邸宅

「おめでとう御座います!!」
ソラの周りには大勢の父親の部下が集まっていた。皆が深々と頭を下げ次々に贈り物を手渡してくる。ソラの3歳の誕生日。これが彼の最初の記憶だ。

ケーキの蝋燭を吹き消し全員でハッピーバースデーを歌った。友好的な笑顔に囲まれ、ソラは喜びでいっぱいだ。両親とナニーに贈り物を披露する。彼らもまた笑顔を向けてくれる。

そして兄のマサヤも笑っていた。兄と言っても義理であり、父親の本妻の息子でソラとは20年も歳が離れている。ソラにとっては遥かに大人に見える存在だった。

そんなマサヤが遊ぼうとソラを誘って庭に連れ出した。広い庭で走り回るソラをマサヤが追いかけてくる。それが楽しくて、ソラは何度も振り返りながら兄を呼んだ。

突然マサヤの足がソラの目の前に飛び出した。マサヤは確信犯だった。ナニーの目が離れた隙を狙ったのだ。ソラはバランスを崩し、激しく転んで顔面を思いきり打った。
 
起き上がって頬に触れると血が付いていた。驚きと痛みに顔が歪み、涙が滲んできた。助けを求めて泣き出しそうになったその時、ソラの目の前にマサヤの顔が飛び込んできた。

「泣くな。泣いたら殴るぞ」
マサヤの瞳がギラギラとしている。その迫力にソラは言葉を失った。泣こうと思ったのに泣けなくなった。顔の痛みも吹き飛んだ。

「テメェは愛人のクソガキなんだ。悪いヤツなんだ。分かるか?オマエは生まれちゃいけなかったんだ。もう一度言うぞ。悪いガキなんだ」
「そ…そうなの…?」

目を丸くするソラをマサヤは睨み続けた。
「そうさ。オマエがいるから悲しむ奴が沢山いるんだ。いいか?オマエは悪魔の子供なんだ」
「あくま…」

悪魔がどんなものかよく分からなかったがバイ菌のようなものだろうかと思った。違うと言い返したかったがマサヤが怖くて出来なかった。そしてその言葉がソラの心に重くのしかかった。


※マサヤがソラやクレハを疎ましく思っているシーンの抜粋



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